TOP CRAFTS NOW INTERVIEW 強く、繊細で、美しい竹細工。小倉智恵美インタビュー

INTERVIEW

強く、繊細で、美しい竹細工。小倉智恵美インタビュー

慎ましやかな佇まいの内側に、強い意志を秘めた竹細工職人の小倉智恵美。わずか数ミリの細い竹ひごを用いて編み出される模様は、息を飲むほどに繊細で美しい。家業を継ぐのではなく、弟子入りするのでもなく、専門学校卒業後に独立した小倉は、いかに職人として生きる道を切り開いてきたのだろうか? 駆け出し時代の苦労から、新ジャンルの開拓まで、試行錯誤の日々を振り返る。

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工房にて、小倉智恵美。

小倉智恵美/竹細工職人
1982年神奈川生まれ。2004年京都伝統工芸専門学校竹工芸専攻卒業後、若手職人たちと共同アトリエを借りて制作を行う。2011年に独立し、自身の工房「京竹籠 花こころ」を立ち上げる。2012年より京都府が主催するプロジェクト「京都職人工房」に参加し、アクセサリー等の新しい分野を開拓する。

白竹牡丹透かし模様菓子器。

白竹牡丹透かし模様菓子器。

ー竹工芸の技術は工芸の専門学校で学ばれたのですね。そもそも、どうして工芸の道へと進もうと思ったのですか?

幼い頃から空き箱で工作したり、押し花をしたり、自然の花や木の実を集めてきてリースにしたりと、ものづくりが好きでした。何かを作っていると心が落ち着いたものです。ある時、テレビで京都の美しい伝統工芸品とそれを作る職人の姿を見て、職人という職業に憧れるようになり、どうしたらなれるかインターネットで調べて専門学校に入学しました。

ー専門学校卒業後は弟子入りすることなく、独立されていますね。

竹細工の職人さんは京都に数名いらっしゃるのみでして、弟子入り先がなかったのです。本来なら弟子入りすることで、技術や仕事の仕方を学び、人とのつながりを作ることができると思うのですが、私は師匠がいないので、いかに職業として成立させるかを自分自身で模索する必要がありました。

駆け出しの頃は老舗の竹工芸品店などからいただくお仕事が大半で、依頼されたものを作る仕事の対価は厳しいものがありました。ネームバリューのある竹工芸品店や百貨店の催事などでは、私の作ったものが安定的に売れます。でも、だからといって、それと同じようなものを作って、私個人の名のもとで売ったとしても、全く売ることができません。当時は「自分の名前で商品を売ることができない」ということについて、深刻に悩んでいました。

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松葉編みバッグ(左)、白竹菱目手付花籠(右)。

ー「売れない」という状況をどのように打開したのでしょうか?

京都府の伝統産業若手育成事業の一環として2012年に立ち上がった「京都職人工房」に入り、販路開拓や商品開発の指導を受けたことが転機となりました。講師の金谷勉さん(セメントプロデュースデザイン代表)のアドバイスのもと、新しくアクセサリーを作ってみることになったのです。そうして生まれたのがこのバングルです。

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Kyoto basketry Accessory series「バングル」。左から、牡丹、白竹月桂樹、松葉。

ーアクセサリーを作るということが、どう状況を変えたのでしょうか?

それまでは、盛籠や花籠、コースターといった茶道具やテーブルウェアを主に制作していたのですが、そういったものにお金をかけるのはごく限られた方のみだと気づいたのです。「アクセサリー」となった途端、20代から60代まであらゆる人々が作品を見てくれるようになりました。自分自身はアクセサリーにさほどお金をかけることはないのですが、百貨店に来るようなお客様には、高い技術を注ぎ込んで作った高額なアクセサリーがよく売れることも分かりました。

ー竹のバングルは珍しいだけではなく、造形的にもよくできていますね。

ありがとうございます。最初の試作品は洋のイメージを持たせるため、シンプルな四角い形状ができる「四つ目崩し」という編み方で作りました。でもちょっとごつくて、女性がつけるイメージではなかったのです。そこで、市場に出回っている様々なバングルを見ながら、価格帯も含め、どういうものが売れているのかを調べて商品開発をしました。最終的に行き着いたのは、京都らしい和の雰囲気を持ちつつ、簡単に作ることができないような繊細なデザインです。例えば、この赤いバングルは農具などに使われる伝統的な「六つ目編み」をベースとしているのですが、そこにさらに細い竹ひごを刺していく「牡丹透かし」という複雑な編み方をすることで、現代的な洗練させたイメージに仕上げています。このバングルを自分自身で身に着けることで、人に自分の仕事を説明しやすくなりました。

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作業の様子。

ー竹工芸品を作るときに大切にしていることを教えてください。

強度と見た目の美しさを両立させているものが、クオリティの高いものだと言えます。細かいことを挙げたらキリがありませんが、まずは編み方に適した材料の状態を作ることから始まります。「竹ひごの厚み」と「編み目の間隔」はかなり関係しており、竹ひごが薄ければ編み目は小さくなります。また、その編み目の形と大きさを均一にすることも大切なポイントです。編み目を固定させ、動かないようにするためには、大きな枠の中に、細い竹ひごを刺していき、隙間をギリギリの大きさまで整えていく必要があります。線を均一化させることは、ものを頑丈にするだけではなく、美しさに大きく関わります。同じ材料で同じ編み方をしても、たった1mm違うだけで見え方が大きく変わってくるのです。どんな時も最高峰の美しいものを作るために、手を抜かないようにしています。

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浅野有希子が主催する「染めつけ 縹」とコラボレーショして制作した「四君子」シリーズ。 Photo by Tetsuya Hayashiguchi

ー小倉さんが作るような繊細な模様の竹工芸品は、他ではなかなか見たことがありません。デザインもご自分でされていますし、小倉さんだからこそ作れるという特別感があります。小倉さんが長い間「売れない」と悩んでおられたのが、とても信じられないのですが。

そう言っていただけると嬉しいのですが、売れない時期は、本当に悔しい思いばかりしてきたんです。依頼される仕事はどれも、高度な技術が要求されるというのに、その対価だけでは生きていけなかったのですから。

私の地元、神奈川では伝統産業に携わる人は希少です。効率的なものづくりが当たり前となった世の中や、社会貢献度の高い周りの人々の仕事を思う時、家業を継いだわけでもない私は「なぜ、自分は竹工芸に携わり続けたいのか?」と考えることが多くありました。

そんななか、心の支えとなったのが、竹を使ってものづくりをすることが環境保全につながるという意識です。日本のどこにでもあり、すぐに育つ竹は、環境に悪影響を与えることが少ない素材です。花を育てたり、木々が生い茂る道を歩いたりと、自然と触れ合うことが好きな私にとって、自分のできる範囲の中で環境保全に貢献できるのは喜ばしいことです。それに、自然のぬくもりを感じる「竹工芸品」というものを、自分で作っていながら心から良いものだと思えるのです。

ただ「なぜ竹工芸に携わり続けるのか?」という問いは、今でも胸の中にあります。この問いは、時代に即したものづくりや意義ある活動をする原動力に繋がると思うので、これからもずっと、自分自身に問い続けていきたいと思っています。

ー今後はどんなお仕事がしたいと考えていますか?

私はあくまでも職人であり「自分はこれを表現したいんだ!」というタイプではないのですが、アート方面の活動には関心があります。同じものをたくさん作る単調な仕事よりも、新しいテーマに挑み、自分の技術力や表現力を試してみたいのです。例えば、陶芸家の浅野有希子さんとコラボレーションして「四君子」という花器を作ったときは、ストーリーのある「作品」を世の中に発信できたところに新鮮さを感じました。ほかにも企業や海外のアーティストなどとコラボレーションして、幾つかのプロジェクトに参加してきましたが、それらは全て難しくてもやりがいを感じられるものでした。今後もそういったオファーにはできる限りお応えし、自分の仕事の可能性を広げていきたいです。

京竹籠 花こころ
URL:www.facebook.com/kyotakekago.hanakokoro

INTERVIEW

TEXT BY AI KIYABU

PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO

17.10.26 THU 20:13

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