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神様の職人たち、被災地に技を送る(後編)

東日本大震災で被災した白山神社(宮城県女川町)の復興を京都の職人たちが支援している。神社にまつわる手仕事をおこなう京都神祇工芸協同組合青年部が、自分たちにしかできない復興支援をと、震災時の津波で流されてしまった祭礼用具を京都で復元して寄贈した。京都は「神祇工芸」における一大産地。神社の仕事を専門におこなう職人たちが軒を連ねる唯一の街として「技術の寄付」をおこなった。(前編はこちら

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白山神社を出発した御輿は囃子とともに新築の家が建ち並ぶ住宅街をねり歩く。しとしと小雨が続くにもかかわらず、玄関の前で手を合わせる人が目立つ。地域の人が待ち望む「普通の暮らし」が、ひとつ、取り戻されたのだろうか。

女川町長の須田善明さんは、「あるべきものが、あるべきかたちになって戻ってきた」と気持ちを表現してくれた。「『復興』といってもすべて元どおりになったわけじゃない。いったんゼロになって、街のかたちが変わって、御輿行列のルートだって変わった。白山神社の社殿も以前とは違う場所に建て直した。このへんは新築(住宅)ばっかりですよ。でも、祭りが戻ってきて、これから女川の街が始まっていく。以前とは違うけど、これでいい。応援してくださるみなさんの厚意で少しずつ街が新しくなっていく」

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震災後、やむなく女川を離れてしまった人たちもこの日はたくさん帰ってきた。道端で、高台で、たくさんの人たちが御輿行列を見守っている。

行列を先導するのは京都神祇組合青年部が手がけた賽銭箱だ。まだ真っ白な桧の木肌が美しい。材は京都の神祭具木工職人、牧圭太朗さんが厳選した最上の木曽桧だ。牧さんも行列を側でうれしそうに眺める。

震災後、御輿の担ぎ手は随分減った。新調した賽銭箱も子供の担ぎ手がいないため、今回は成人女性が担ぐことになった。一方で、新しく担ぎ手に加わった人たちもいる。日頃、女川町で働く人たちが有志として参加。町役場の職員、東北電力の社員、がっしりした体格は、サッカーJFL・コバルトーレ女川の選手たちだ。祭り慣れした地元の人の動きを手本に、ぎこちなくも一生懸命に声を挙げている。
地元の人々にとっては7年ぶりの、有志参加者にとっては初めての、賽銭箱が先導する白山神社例大祭が進行していく。

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女川で生まれ育ち、60年近く例大祭に携わってきた阿部薫さんが行列のいちばん後ろから若者たちを見守る。「みぃんな久しぶりでぇ、たどたどしいな」と顔をくしゃくしゃにして笑う。
神社を出発して1時間が経ってもまったく乱れぬ囃子に、例大祭ができなかった期間も笛や太鼓の練習が続いていたことを知る。

若手が疲れをみせると、例大祭を取り仕切る女川実業団の団長、阿部善明さんが黙って手を伸ばして笛を受け取る。阿部さんの口元から音がぴゅぅんと空に伸びていく。笛の音とともに御輿が躍動する。さっきまで笛を吹いていた鈴木康太郎さんも聞き惚れている。「これよ、これが本物よ。あんたも取材ならこっち聞かなきゃ」とうれしそうに言った。

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女川で暮らしの復興が進み、新しい街並みが姿を見せ始めた今、こころの復興が必要になった。いつもの季節、いつもの顔ぶれで「ちょぉうさぃ」と声を挙げる祭礼は、そうした地域のこころそのものだろう。

氏子の清水章宏さん、阿部薫さんも「やっと元どおりの5月3日を迎えることができた」と笑い合う。

白山神社の禰宜、水越栄子さんは「あらためて神社や祭礼の存在意義を自覚した」と話す。「大昔からある神社は地域にとって「あって当たり前」。それを失って、多くの方のご協力を得ながらいちからつくっていく過程を経験して、なにひとつ当たり前のことはなかった。今年、新しい賽銭箱が届いてようやく震災前と同じ祭礼ができるようになりましたが、気持ちのうえでまったく新しい祭りみたいに感じますね」
御輿の行程がちょうど半分を過ぎた頃、どんようりしていた雲から晴れ間がのぞくようになった。陽光に後押しされるように、笛の音も担ぎ手の掛け声も大きくなっていく。

あと少し歩けば、あといくつかの町内を回れば、今年の御輿行列は終わる。あそこの角を曲がれば仮設住宅、建て直したばかりの新築住宅が並ぶ地域はあっち。
祭りが終わると、みんな日常に戻っていく。神祇工芸の職人たちも京都に帰っていく。そうして、ふだん通り、通勤したり、漁に出たり、工房で汗を流す日々がまた始まる。

来年もまた、5月3日に例祭ができるように。

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TEXT BY YUJI YONEHARA

PHOTOGRAPHS BY MASUHIRO MACHIDA

18.10.30 TUE 12:00

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