TOP CRAFTS NOW REPORT 「RENEW 2018」 イベントレポート前編
特別企画「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」

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「RENEW 2018」 イベントレポート前編
特別企画「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」

“見て・知って・体験する”作り手たちとつながる体験型マーケット「RENEW2018」が今年も開催された。2015 年に福井県鯖江市河和田地区でスタートした産業観光イベントは、普段足を運べない工房を見ることや職人の仕事を体感できるイベント。工房ではワークショップや見学ツアーも行われ、その場で購入することもできる。
このイベントを企画するのは鯖江市河田地区に拠点を構えるデザイン事務所TSUGI。彼らの思いに共感する職人や地域住人、行政の職員、さらには他府県の職人や学生など、彼らを支持する動きはどんどん広がっている。
毎年新たな試みに挑戦しているのも、このイベントの魅力。中でも今年の目玉イベントが特別企画「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」。全国のローカル経済圏で社会的意義の高い21の活動を紹介するショップ型の博覧会。前半では「まち/ひと/しごと」の出店者の地域での取り組みについて、後半ではRENEWから生まれる新しい動きを紹介する。

■RENEW2018開催概要
開催期間:2018年10月19日(金)〜21日(日) ※まち/ひと/しごとは10月18日(木)〜21日(日)
開催地:福井県鯖江市・越前市・越前町全域 総合案内:うるしの里会館(福井県鯖江市西袋町40-1-2)
http://renew-fukui.com

■「まち/ひと/しごと」は地元の人へ向けたイベント

RENEW2018の特別企画として開催された「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」。参加した21の会社やショップは、東京、大阪、福岡といった主要都市から、山形、長野、奈良、徳島、鹿児島などの地方までさまざま。選考の基準は各地の地域課題を解決するために熱量をもって活動する若手たち。そのほとんどが二つ返事で出展を受けてくれたという。

今回RENEWが3日間なのに対し、「まち/ひと/しごと」は4日間開催された。その理由をTSUGIの代表・新山直広さんに聞くと、地域の課題と時代の変化を捉えながら、鯖江と共に生きていく思いが伝わってくる。

RENEWを主催するデザイン事務所TSUGI代表の新山直広さん。

RENEWを主催するデザイン事務所TSUGI代表の新山直広さん。

「今年は、ある意味リスタートという気持ちがありました。そのなかで、まち/ひと/しごとは、新たな試みのメインになるイベントです。まち/ひと/しごとは地元の人に見てもらいたいと思って挑戦したもの。福井以外の土地ではどんな戦い方をしているのか、地元の職人さんたちに学んでほしいと思い、RENEWに出展している方たちにも見てもらえるように1日早いスタートしたんです。」

また、今回出展している会社やショップは、ものづくりだけでなく、食、教育、福祉、コミュニティ、IT、防災など、暮らしにまつわるキーワードを軸に選出しているのも興味深い。例えば福祉をテーマに取り入れたのは、RENEWのメイン会場である河和田地区が福井県の中でも後期高齢者率が高いエリアだからだ。昔は漆器の行程の中で障害のある方が仕事をしていた背景もあり、福祉と地域の関係性は他人事ではないと新山さんは言う。地域が抱える課題解決の糸口を見出そうする「まち/ひと/しごと」の意義は、とても大きい。

新山さんとTSUGIを立ち上げ、RENEW全般のデザインを担当する寺田さん。

新山さんとTSUGIを立ち上げ、RENEW全般のデザインを担当する寺田さん。

会場を歩いていると、目に飛び込んでくる大小さまざまな赤色の丸。デザインを担当したのは、TSUGIのデザイナー・寺田千夏さんだ。
「RENEW全体のイメージが残りづらいと思い、キーになるイメージをつくろうということになって2017年から採用しました。その中でRENEWの強み、RENEWらしさとはなんだろうと考えてみたら、“人が巡る”だと思ったんです。実は昔から河和田地区は移住者が多い街。また河和田は業務用漆器の街なので、時代のニーズに合わせたものをつくっていかないといけない。ものづくりに対して柔軟な考え方の人が多いんです。そういう地域の中で人が動き、重なり、集まっていくのを形に落とし込むと丸になりました。赤は、漆器の色であり、心理的要素として五感の中で一番響く色なんです。」

スタッフが着用する法被や会場装飾、ポスターやのぼり、チラシまでとにかくイメージが統一されている。

スタッフが着用する法被や会場装飾、ポスターやのぼり、チラシまでとにかくイメージが統一されている。

そんな新山さん、寺田さんも移住者のひとり。普段から職人と関わりながら仕事をしていることや、RENEWを機に県外から足を運ぶ人が増えたことを実感しているため、彼らに対する地域からの信頼はあつい。鯖江には職人やデザイナーが地域を巻き込みながら新しいことに挑戦できる土壌がある。人が動きやすい場所に、人が集まってくるのは自然なことなのかもしれない。

■まち/ひと/しごと-Localism Expo Fukui-

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北は山形から南は鹿児島まで、21のブースを巡れる新たな試みは、連日大盛況。今回21ブースの中から徳島、東京、長野、兵庫の4地域で活動や商いをする人に話を聞いた。それぞれの取り組みは違うけれど、どこか同じ空気を感じるのは、地域で生きることへの責任や覚悟があるからなのかもしれない。

■地域を残すカタチのあり方/RDND(アール・デ・ナイデ)徳島

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「合同会社RDND」の代表・東輝実さん。生まれ育った徳島県上勝町が自立し、継続できる方法を、カフェやゲストハウス事業を運営しながら探っている。

「合同会社RDND」があるのは四国で一番小さな町、徳島県上勝町。人口約1,500人の半分が65歳以上、超高齢化という大きな課題を抱えている町だ。代表の東さんが合同会社を立ち上げたのは今から6年前。上勝に人は来るけれど、座って30分以上話せる場所がないことに気づき、大学卒業後にカフェをはじめた。

「上勝の魅力的なものを紹介したくて、社名を阿波弁の「あるでないで(あるじゃない)」にしました。カフェは上勝で採れた野菜を使ったランチが食べられたり、上勝の番茶を飲みながら上勝の人とゆっくり話ができる場所。カフェを拠点に上勝のファンづくりに取り組んできたいです。」

(写真左)「まち/ひと/しごと」で初お披露目となった、徳島県上勝町から発信するファブリックブランド「KINOF」。 山あいにある上勝町の木を使い、糸の紡績から製織・縫製までを国内にて加工。 (写真右) 乳酸発酵という独自の製法でつくられ、長い歴史のある阿波番茶。上勝町と徳島県のごく一部でしか生産されない貴重なお茶は、カフェインが少なく、妊娠している方も安心して飲める。

(写真左)「まち/ひと/しごと」で初お披露目となった、徳島県上勝町から発信するファブリックブランド「KINOF」。 山あいにある上勝町の木を使い、糸の紡績から製織・縫製までを国内にて加工。
(写真右)乳酸発酵という独自の製法でつくられ、長い歴史のある阿波番茶。上勝町と徳島県のごく一部でしか生産されない貴重なお茶は、カフェインが少なく、妊娠している方も安心して飲める。

イベント出店自体はじめてだというが、緊張やぎこちなさを微塵も感じさせない東さん。その言葉は、上勝への思いであふれていた。来場者の心に東さんが語る上勝が残ることも、また残すという一つのカタチだと思う。

■地域とデザインと福祉のいい関係/HUMORABO(ユーモラボ)東京

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前川雄一さんと亜希子さんによる夫婦デザインユニット「HUMORABO」。福祉商品の企画・販売を通じ、「デザイン×福祉」のさらなる可能性を探るため、2015年よりユニットとして活動を開始。

前川雄一さんと亜希子さんによる夫婦デザインユニット「HUMORABO」。福祉商品の企画・販売を通じ、「デザイン×福祉」のさらなる可能性を探るため、2015年よりユニットとして活動を開始。

今回唯一福祉枠で出展していた「HUMORABO」へ話を聞こうと挨拶へ行くと、「牛乳パックと新聞紙どちらがいいですか?」と前川亜希子さんが聞いてくれた。選んだ紙を目の前の小さな活版印刷ができる道具で刷り、出来立てほやほやの名刺を渡してくれる。いつもの名刺交換とは違う出会いのはじまりに、心を掴まれてしまった。

「この紙は福祉施設と一緒に作っているものなんです。紙を作ってはるけれど、使い方がわからないと言われるので、家でも気軽にできるような活版印刷を考えました。」

「NOZOMI PAPER」は牛乳パック、新聞、コーヒーの3種類。

「NOZOMI PAPER」は牛乳パック、新聞、コーヒーの3種類。

「東日本大震災のときに、東北の障害者施設へデザイナーを派遣するプロジェクトを立ち上げ、宮城の「のぞみ福祉作業所」という紙漉きをやっている施設に入ってお手伝いをしました。その時に、デザインの良し悪しだけではなく、紙自体をブランディングして、自立していく提案をしたんです。」

最初は牛乳パック1種類からはじまり、地元の新聞屋さんの依頼から新聞で作るもの、コーヒーを混ぜた紙など、コラボをしながら「NOZOMI PAPER」が完成した。福祉施設でつくるリサイクルペーパーは驚くような安さで売られてしまうのが当たり前だったが、前田さん夫婦は「NOZOMI PAPER」をブランド化することを提案。事業所ではなく「のぞみペーパーファクトリー」という名前に変え、工房でつくる職人になろうというテーマで、今もつくり続けている。

■新しい組織のかたち/パンの日曜品の店わざわざ 長野

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株式会社わざわざ代表の平田はる香さん。2009年2月、パンと日用品の店「わざわざ」を一人で開業。

長野県東御市にある「パンと日用品の店わざわざ」は山の上の長閑なこの場所にある。にも関わらずめざましいスピードで成長し、2017年に株式会社へ組織を変更、現在13人のスタッフと共に働いている。
理念は「全ては誰かの幸せのために」。販売しているのは2種類のパン、自分たちが心から欲しいものを基準に作るオリジナルプロダクト、そして4つの基準で選ぶセレクトした日用品がある。

「長くつかえるもの、飽きのこないもの、日常に寄り添うもの、きちんと作られたもの。この4つのコンセプトに当てはまるものを精査して並べています。」

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「わざわざの働き方」は自費出版で4000部が完売。第3版が出版された。

独自の経営スタイル、新しい働き方・暮らし方などに注目が集まる平田さん。「わざわざの働き方」の出版にも、それが反映されている。
「本を出版したのは採用プログラムの一環です。この本を読んで感想文を送ってもらうのですが、この採用方式を取り入れてから、入社前と入社後のギャップがなくなり、スタッフが早期で退職するということがなくなりました。」

この採用プログラムを取り入れてから既に6名が入社。本を出版してから、社内で働きかたについて協議することも増え、自分たちの働き方を自らが考えることが一つの文化になり始めていると言う。
本には平田さんの経営理念や、スムーズな業務を可能にするまでの苦労や悩んだことも包み隠さず書かれている。仕事をしている人なら誰しも平田さんが考える働き方や組織のあり方に共感する部分があるはずだ。

■持続可能なものづくりを/TRUNK DESIGN 兵庫

TRUNK DESIGN代表の堀内康広さん。地元兵庫県の地場産業のプロデュースやブランディング、百貨店広告などのディレクションやデザインまで幅広く行う。

TRUNK DESIGN代表の堀内康広さん。地元兵庫県の地場産業のプロデュースやブランディング、百貨店広告などのディレクションやデザインまで幅広く行う。

神戸の垂水という海辺の町を拠点に活動をする「TRUNK DESIGN」。代表の堀内さんは兵庫の地場産業とデザインを組み合わせて展開する事業を行なっている。
「地元の姫路エリアの地場産業のマッチを作る事業に出会い、自分が住んでいる街のものづくりを全く知らないことに気づいたんです。まずは地元のものづくりを地元の人に紹介して、それを日本で広め、海外にも展開するというのを目標にはじめました。」

堀内さんは兵庫県全域を全て車で回り、職人さんに会いに行った。職人さんと話をするなかで、つくることはできるけれど、製品にできない、売ることができないという課題を抱えていることを知る。そこで自分たちの強みである編集・デザインを加え、流通につなげるところまでを担うカタチをつくりあげた。職人からデザイン料をもらうのではなく、お客さんとのBtoCで循環させているのも特徴の一つだ。

(写真左)兵庫県淡路島は、全国生産の7割を占めるお香の産地。また、兵庫県太子町もマッチの産地だ。もともと共同で商品開発に取り組んでいた2社の間に入り、ブランディングを担当した。 (写真右) 播州織から生まれたアパレルブランド「megulu」。播州織のやわらかなテキスタイルで作られたオリジナルのシャツやストールなどを展開。

(写真左)兵庫県淡路島は、全国生産の7割を占めるお香の産地。また、兵庫県太子町もマッチの産地だ。もともと共同で商品開発に取り組んでいた2社の間に入り、ブランディングを担当した。
(写真右) 播州織から生まれたアパレルブランド「megulu」。播州織のやわらかなテキスタイルで作られたオリジナルのシャツやストールなどを展開。

「デザイン以上に、職人さんとの人間関係を築くことに時間をかけています。何度も会いに行き、何度も言葉を交わす。関係をつくってからデザインをしていかないと継続したものづくりはできないです。」
OEMの産地だと決まったものを発注されることが多いが、ある一定のルールを決めて、職人に考えてもらう余白を残して発注しているという堀内さん。自分たちでは想像できなかった新しいものが生まれる可能性を、職人から引き出しているのだ。

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今回4つの地域の話を聞いたが、それぞれの働き方の中には、どの地域でも展開できるヒントがたくさん感じられた。仕事をすること、地域で暮らすということ、人と共に生きるということ。全国のものづくりやしごとに出会える「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」が、RENEWを育んだ福井県鯖江市で行われたことに、何より意味がある。

REPORT

TEXT BY YUKI NISHIKAWA

PHOTOGRAPHS BY MASUHIRO MACHIDA

18.12.21 FRI 16:33

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