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ウィリアムズ大の学生が工芸から見た1200年の京文化、歴史と今(前編)

日本文化に関心のあるウィリアムズ大学の学生8名が「宗教」「茶の湯」「織物」「能」という4つのテーマから伝統工芸にアプローチするウィンター・プログラム「工芸を通して見る1200年の京文化、歴史と今」が開催されました。プログラムの期間は1ヶ月。そのうち、10日間は京都に滞在しながら、職人の工房訪問や茶会体験などを行い、その滞在の最後に学んだ成果を発表しました。アメリカの若者たちは京都の工芸からどのような学びを得たのでしょうか?企画者である松山幸子さんご自身にレポートしてもらいます。

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松山幸子(マツヤマサチコ)|工芸文化を世界と共有することを目的に、2014年1月、monomo設立。工芸を、日本の社会、価値観、意識の鏡であると捉え、工芸の裏側にある物語を発掘し、発信する。アーティストやデザイナーと日本の職人とのコラボレーションのディレクション、工芸を通して日本文化を学ぶ教育プログラムの企画などを手がける。

 

生きた学びを持ち帰って、生きるヒントに—プログラムの目的

はじめまして。monomoの松山と申します。工芸の裏側のストーリーを紡ぎながら、日本の手しごととそれを支える職人さんを、海外のオーディエンスにつなぐことを目的として活動しています。 このプログラムは、ウィリアムズ大学が冬季に実施している学部縦断のオフキャンパス・プログラムのひとつとして、monomoが企画させていただきました。参加した8名の学生たちの多くは日本語を学んでいますが、専攻も学年も様々です。この学生たちに、生きた事例と主体的に関わり、生きた体験を持ち帰ってほしいというのが、このプログラムを企画する上で非常に大事にした点でした。

工芸は文化の鏡—プログラムの概要

このプログラムは、工芸が日本の文化や心、社会の在りかたを象徴する鏡であるということを理解してもらえるように構成しました。 例えば、職人さんの生き方や考え方には、私たちの多くの生活がそうであるように、たとえご本人が意識していなくても、仏教や神道など日本に根付く宗教的な教えの影響を受けています。また、多くの職人が使う道具は、やはり道具専門の職人が作っており、社会が消費主義傾向にある中では、世の中に出回るモノを作る職人以上に、道具を作る職人の生活が脅かされています。 つまりこのプログラムでは、そういった工芸の心を紐解くヒントとして「仏教」について学び、またそういった工芸が息づく文化体系として、「茶の湯」と「お能」に注目し、さらにそういった文化の中で重要な役割を果たす素材として「織物」にフォーカスする、という、3次元構成の中で、それぞれの分野で活躍するプロフェッショナルたちと出会っていきました。

座学で得た広い知識を、体験で体に落とし込む—プログラムの内容I

座学(講義)と、体や感性を使った生の体験と、そして多くの出会いを通して、多面的な学びを得られるように構成されています。 来日する前の10日間も、学生たちはキャンパスにて、数冊の課題図書を読み込み、かなり入念な下調べをしてきてくれていますが、来日後にも、いくつかの講義を受けてもらいました。 仏教に関連する「座学」では、仏教美術を研究をされているキャサリン・ラドヴィックさんを講師にお迎えして仏教の歴史、仏教美術や建築、禅のことなど広範囲に学び、お能に関する「座学」では、お能を研究をされているディエゴ・ペレッキアさんより、分かって観たら100倍楽しいお能の楽しみ方について存分に教えていただきました。

©Sachiko Matsuyama

©Sachiko Matsuyama

 

一方、座学で学んだことを生で目撃するべく、キャサリンさんと大徳寺に出かけ、講義で学んだ事例を目の当たりにし、ディエゴさんとともに実際にお能を鑑賞しました。陶々舎の茶道家・天江大陸さんとは、神社でお水を汲んで、お菓子屋さんでお菓子を買って、お茶室のお掃除をし、瞑想で心をととのえ、そしてお茶会を行うという、単にお作法の真似事をするのとは全く異なるレベルで、生きた「体験」をしました。

©Sachiko Matsuyama

©Sachiko Matsuyama

 

より良い出会いのために学び、より深い学びのために出会う—プログラムの内容II

そしてさらに多くの方々との「出会い」を通して、現代の営みとしての工芸と、そこに息づく世界観や哲学について体感することとなりました。 能楽師の宇高竜成さんには、たくさんの能面や装束を見せていただいたり、能の舞いについてお伺いしました。お能の動きはとても制限されていますが、だからこそパフォーマーと観客の間にパワフルな想像力のキャッチボールができることを教えていただきました。また、能面の一見シンプルに見える表情は、角度や動きによっていく通りものの表情を生み出すことや、全く同じ演者による同じ演目は連続して上演されることがないため、そこに「一期一会」の美しさがあることを学びました。

©Carl Rustad

©Carl Rustad

 

株式会社龍村光峯の龍村周さんには、織物の歴史のこと、産業の構図のこと、何工程にもわたる工程とそこに関わる専門家の方々のことなど、たくさんのことを教えていただき、加えて工房にて、機のしくみを、目で見て、そして体で体験させていただきました。

©Louisa Kania

©Louisa Kania

 

さらに周さんには「紋意匠図」の工房(株式会社小笹紋工所)と、「糸染め」の工房(有限会社浜卯染工場)へも連れて行っていただきました。「紋意匠図」とは、織物のためにデザインされた2Dの情報を、機で織るために作成する3Dの設計図のようなものです。「糸染め」とは、織物にする前の糸を、求められる色に厳密に染め上げるお仕事です。

©Carl Rustad

©Carl Rustad

 

これらの織物に関わる複数の方との出会いを通して、学生たちは、「原初的」「古典的」、というイメージであった機織り機が実は、「現代的」「科学的」、というイメージを持つコンピューターと、本質的には同じようなことをしているのだ、ということに衝撃を得たり、また分業により支えられる京都の織物のエコシステムの端々にいらっしゃる、1200年の技・質・美を受け継ぐ人々の高年齢化、という現実を目の当たりにして、感傷的になったりもしました。

©Sachiko Matsuyama

©Sachiko Matsuyama

 

また、神社仏閣に収めるご神鏡を作る鏡師の山本晃久さんや仏様をつくる仏師の宮本我休さんには、職人が信仰と関わるときの日常の態度や、伝統を守るために行われている異なるアプローチでの挑戦をお伺いして、刺激を受けました。また、東福寺退耕庵・副住職の五十部友啓さんには、禅の考え方である自分と世界とを分けるラベルを外してみることと、「今」この瞬間を生きることを、座禅と法話を通して学びました。

©Brian Policard

©Brian Policard

 

これらの工房訪問や体験を通して、学生たちはどんなことを学んだのでしょうか? 後編では、帰国日の前日に一般客に向けて行った「成果発表会」の様子をレポートします。

後編はコチラ >> ウィリアムズ大の学生が工芸から見た1200年の京文化、歴史と今(後編)

 

ウィリアムズ大学ウィンター・プログラム
「工芸を通して見る1200年の京文化、歴史と今」

「宗教」「茶の湯」「織物」「能」という4つのテーマをもとに、ウィリアムズ大学ウィンターの学生8名が、伝統工芸およびそれを培ってきた日本文化について学び、成果発表会を行ったプログラム。1月3日〜1月27日開催(そのうち1月9日〜20日は京都滞在)。

主催:ウィリアムズ大学 https://www.williams.edu
企画:monomo(代表・松山幸子)http://jp.monomo.jp/
協力: (敬称略・順不同)
金剛流能楽師 宇高竜成
立命館大学アート・リサーチセンター Diego Pellecchia
スタンフォード日本センター  Catherine Ludvik
仏師 宮本我休
鏡師 山本晃久
東福寺退耕庵 五十部友啓
株式会社龍村光峯 龍村周 ほか 皆様
株式会社小笹紋工所
有限会社浜卯染工場
陶々舎 天江大陸

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TEXT BY SACHIKO MATSUYAMA

17.03.08 WED 16:33

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