TOP CRAFTS NOW INTERVIEW 後継者が語る、伝統工芸の仕事ライフvol.4
「株式会社 大西常商店」

INTERVIEW

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後継者が語る、伝統工芸の仕事ライフvol.4
「株式会社 大西常商店」

昭和初期から約90年続く、京扇子の製造、卸業・小売の「大西常商店」。今回、話を伺ったのは、この扇子屋の一人娘として生まれ、2016年に4代目として家業を継ぐことを決意した大西里枝さん(27)です。

大西里枝|1990年生まれ。立命館大学卒業。大手企業の営業企画職を経て2016年8月より現職。

大西里枝|1990年生まれ。立命館大学卒業。大手企業の営業企画職を経て2016年8月より現職。

 

自分の子供も扇子の仕事で育てたい

「学生の頃から家業を継ぐことは、自分の中で選択肢の一つとしてありました。子供を産んで里帰りをしている時に、扇子屋という家業を改めて意識するようになったのです。今まで自分は扇子でご飯を食べさせてもらって、大学まで行かせてもらったんだと気づき、自分の子供も、扇子の仕事を通して育てていくことがとても自然なことのように感じました」と里枝さんは家業を継いだ切っ掛けをふり返る。「4年半勤めた会社で培った営業企画のノウハウを活かして、自分たちの商品をもっと上手に売れるはずだという根拠のない自信もありました」。

店舗には、季節や用途によって違う様々な扇子が並び、奥の工房では扇子の修理作業も行う。

店舗には、季節や用途によって違う様々な扇子が並び、奥の工房では扇子の修理作業も行う。

 

扇子屋の仕事とは

主な仕事内容は、商品企画や買い付け、検品など。工房も併設し、必要なら直しの作業まで行います。
「私の扇子屋として最初の仕事は、お世話になっている職人さんに挨拶回りをして、分業である扇子作りの工程を1から覚えていくことでした。今は、店舗のウェブサイトやパンフレット制作など、新しい事に少しづつチャレンジしています」。

時代の流れで、「扇子屋」として生き残ることの厳しさも感じているそうです。
「これまでと同じやり方で扇子を作っていても先が見えない。これからは、これまでの古典的な商品の良さを残しつつ、現代の感覚をうまく取り入れた商品を作っていかないといけません」。

中庭があり、職住一体となった昔ながらの京町家。

中庭があり、職住一体となった昔ながらの京町家。

 

築150年になる伝統的な京町家

扇子を売る店舗であり、大西家の住居でもある京町屋は、創業者の大西常次郎によって建てられ、築150年になります。通りに面して店舗があり、鰻の寝床と呼ばれる奥に続く通路にはお竈(くど)さんもあります。

京都の風景を彩る町家も、相続や耐震など問題から維持が難しくなっています。大西常商店も例外ではなく、15年前に町家を取り壊し、ビルを建てる話が持ち上がったが、里枝さんの母親の優子さんの「町家とそこに根付く生活文化を残したい」という熱意により、お客さんに京町家を体感してもらうため、茶室を改修し、大広間を作り、現在の姿になりました。

インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集めるクラウドファンディング。 里枝さんの思いは、約一ヶ月間で多くの人の共感を得て、無事プロジェクト目標を達成。

インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集めるクラウドファンディング。
里枝さんの思いは、約1ヶ月間で多くの人の共感を得て、無事プロジェクト目標を達成。

 

京町家のくらしと文化をもっとたくさんの人に知ってもらいたい!

両親が残してくれた町家を今度は自分が守っていかなければいけないと、里枝さんは新たにクラウドファンディングによる資金調達に挑みました。

4年半の間、実家を離れる事で町家での暮らしや文化の素晴らしさを感じるようになり、私の中で職住一体の京町家を活かして、扇子を販売しながら暮らしや文化を感じてもらえる場所にしていきたいという気持ちが生まれて来ました。

結果、ご支援いただいたみなさんのおかげでクラウドファンディングでの目標金額も達成出来たので、1階の作業場を2階に移転する改装を行い、より多くのお客様に向けて町家を公開していきたいと考えています。
まずは6月くらいから、海外旅行客に向けて京町家とお茶室の見学と、抹茶とお菓子の茶席プランを計画中です。

左は母の大西優子さん、右は父の大西久雄さん

左は母の大西優子さん、右は父の大西久雄さん

 

町家を守ろうとする母。商いを守ろうとする父

若い感性を活かしながら新たなチャレンジをする里枝さんのことをご両親はどのように考えているのでしょうか?

母の優子さんは「私が滋賀県から嫁いで来た当時は、入り口から店舗の中が見えず何屋さんか分からなかったほどなんです。『これではいけない』と思い、主人に相談して、今のように中の見える店舗にしました。現在、家の裏でマンション工事が進んでいて、完成すれば両隣合わせて三方をマンションに囲まれてしまうので、京町家を守ろうという気持ちは強くなっています。そして、その思いは娘に引き継がれていると思います」と話します。

父の久雄さんはこう語ります。「扇子を作る職人の後継者不足もあり、賛成しにくかったのですが、本人の後を継ぎたい意思が強かったので、応援しながら頑張ってもらいたいと思っています。娘は社交性があり、いろんな方を連れて来て、それが商売にも繋がっているので、その点は安心しているんですが、一途になるタイプなので暴走しないように気をつけてます」。

江戸時代に庶民の遊びとして親しまれた「投扇興」を行う里枝さん。

江戸時代に庶民の遊びとして親しまれた「投扇興」を行う里枝さん。

 

扇子を売っていくことが厳しい世の中の流れを理解しつつ、里枝さんは昔ながらの生活や文化、芸能を守り伝えていくことを、クラウドファンディングなど現代的な方法を使うことで、両親から受け取ったバトンを次の世代に渡そうとしています。

現在も行われている扇子絵付け、茶道、投扇興、長唄、三味線などの文化体験教室に加えて、今後はお竈さんなどを使った節句の行事や、日本画を勉強している方に展示会場として町家を使ってもらうなど、もっと人に来てもらえる家にしたいと話をしてくれました。

創業者の大西常次郎は伝統芸能が好きで、扇子屋を営みながら謡や浄瑠璃などを開いて、人が集うサロンを開いていたと言います。そうしたご先祖から続く、伝統芸能・伝統文化や人との繋がりを大切にする気持ちは、里枝さんにしっかりと受け継がれていると感じました。

ダーツのように、蝶と呼ばれる的に向けて扇子を投げ、扇子と蝶のかたちを見て点数が決まる。 写真は、床に落ちた扇子の上に蝶が立った状態で乗った「浮船(うきふね)」。

ダーツのように、蝶と呼ばれる的に向けて扇子を投げ、扇子と蝶のかたちを見て点数が決まる。
写真は、床に落ちた扇子の上に蝶が立った状態で乗った「浮船(うきふね)」。

 

株式会社 大西常商店
URL:http://www.ohnishitune.com

INTERVIEW

TEXT BY MASAHIRO FUJII

PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO

17.04.04 TUE 13:59

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