TOP CRAFTS NOW CULTURE 工芸ショップ数珠繋ぎ Vol.3「日日」
独自のスタイルで、ものの魅力を伝える

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工芸ショップ数珠繋ぎ Vol.3「日日」
独自のスタイルで、ものの魅力を伝える

素敵な手仕事に出会える工芸ショップがたくさんある京都。この記事では、目利きの店主がいるショップを数珠繋ぎで紹介していきます。第3回目は、昂 KYOTOの永松仁美さんが「プロフェッショナルな仕事を感じさせてくれるギャラリー」と紹介してくれた「日日」です。店主の奥村文絵さんにお話を伺いました。

ギャラリー2階のミーティングルームにて、店主の奥村文絵さん。「foodelco」の代表として食のブランディングを手がけるフードディレクターでもある。

ギャラリー2階のミーティングルームにて、店主の奥村文絵さん。「foodelco」の代表として食のブランディングを手がけるフードディレクターでもある。

 

御所東の古民家に2015年に移転オープン

緑豊かな京都御苑と鴨川に挟まれた御所東にあるギャラリー「日日」。広々とした和室のギャラリーとカウンターのあるティールームを備えた、築100年を越える古民家のプライベートな空間です。

「日日」は、約20年前、ドイツ人のエルマー・ヴァインマイヤーさんが自宅で始めた予約制のギャラリーから始まりました。エルマーさんは、20代の頃に京都大学に留学してから、工芸を始めとする日本の文化に魅せられ、以来ドイツと東京、京都を拠点に、職人の手仕事を訪ね、紹介してきました。

2015年11月、東京・富ヶ谷にあったギャラリーをクローズし、移転オープンししたのが現在の「日日」です。移転をきっかけに、エルマーさんの奥様で、フードディレクターでもある奥村さんが、その意思を引き継ぎギャラリーを運営することになりました。

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仁城義勝の栃の木の応量器。仁城の器には、時に、節の部分が現れてれていることもある。傷一つないものを良しするならば、木の命を丸ごと受け入れた仁城の仕事はその基準に当てはまらない。「私たちはさほど深く考えず『美しい』と口にしてしまうものですが、仁城さんは『美しい』が分からないとおっしゃるんです」と奥村さん。国を問わず、彼の器に惚れ込むファンは多い。

仁城義勝の栃の木の応量器。仁城の器には、時に、節の部分が現れていることもある。傷一つないものを良しするならば、木の命を丸ごと受け入れた仁城の仕事はその基準に当てはまらない。「私たちはさほど深く考えず『美しい』と口にしてしまうものですが、仁城さんは『美しい』が分からないとおっしゃるんです」と奥村さん。国を問わず、彼の器に惚れ込むファンは多い。

 

日常の中で生きる贅沢な品々

「日日」では、長い年月をかけて築いた職人との信頼関係をベースに、確かな技で作られた日常使いの道具を取り扱っています。

例えば、ギャラリーが始まった頃から付き合いがあるという木地職人、仁城義勝さん。栃の木の漆鉢は、大きさ違いの5つの器が入れ子状になっています。「応量器」と呼ばれるこの形は、もともと僧侶たちが食事に使う道具で、汁、飯、副菜に用いるのはもちろんのこと、これひとつであらゆる用途に利用できる便利なものです。全く無駄のない形でありながら、手仕事の温かみがあり、木目が透ける拭き漆はみずみずしく、木が過ごしてきた時間を感じさせます。

「仁城義勝さんは、木への愛情が人一倍強い職人です。ろくろ成形は手作業でひとつひとつ、木の個性に合わせて行います。仁城さんは、自分の思い描く型に木をはめ込んだり、柾目の綺麗なところだけを選んで使うことはできないというのです。人にそれぞれ性格があるように、木にもそれぞれの性格があるからです。漆器づくりは分業制になっていて、木地師が木地を作り、塗師が漆を塗るのが一般的です。彼の場合はどちらも自身で行っていますが、中心となるのは木地です。漆はただ木を保護するためにすぎず、色の付いていない生漆を3回塗っておしまい。だからこれらは漆器ではなく、木の器なのです」。

備前焼の陶工として初めて人間国宝となった金重陶陽の甥である金重 愫(かねしげ・まこと)の備前焼。修行始めてから10年間は、作品づくりを許されず、ひたすら土作りに従じたという。金重家では「土」は「米より女房より大事」と言われてきたそう。茶陶が中心の彼の仕事としては珍しい、日常の食器を日日で取り扱っている。

備前焼の陶工として初めて人間国宝となった金重陶陽の甥である金重 愫(かねしげ・まこと)の備前焼。修行始めてから10年間は、作品づくりを許されず、ひたすら土作りに従じたという。金重家では「土」は「米より女房より大事」と言われてきたそう。茶陶が中心の彼の仕事としては珍しい、日常の食器を日日で取り扱っている。

 

奥村さんが最近、特に関心があるのは備前焼。金重 愫さんの食器を手に取りながら、こう語りました。

「備前焼の文様は、窯の火がつくるもので、置き場所や温度の変化に関係する偶然の表現です。たとえば『火襷(ひだすき)』と呼ばれるこの文様は、もともと器どうしがくっ付かないように、器を藁で巻いて窯に詰めて焼いたのが始まりです。赤く発色した藁のあとを、見どころにして楽しみます。ある時、金重さんの言葉『土はなー、生きとるんじゃ』に驚きました。金重さんは、動力を一切使わずに陶土を作ります。原土を金槌で細かく砕き、水に浸してから、数日の間、足で踏みしめて粘土にしていく。釉薬を使わないのが備前焼ですから、土は素材であり、構造であり、テクスチャーになります。器の背景が見えてくるにつれ、シンプルでありながら、なんて奥が深いのだろうと。以来、毎日使ってみています。最初はわからなくていい。使い込むうちに器が気づかせてくれる何かを、ワクワクしながら味わおうと思って」。

左が奥村文絵さん。右が永松仁美さん。永松さんのギャラリーを訪れた奥村さんは感銘を受け、あれこれと話し込んだそう。

左が奥村文絵さん。右が永松仁美さん。永松さんのギャラリーを訪れた奥村さんは感銘を受け、あれこれと話し込んだそう。

 

何よりも「もの」が主役のギャラリー

奥村さんの言葉からは、なぜこのような形なのか、どんな人が作っているのかなど、「もの」の裏側にある哲学や美学が明確に伝わってきます。

永松さんも頷きながら、興味津々に作品を眺めていました。
「『日日』で取り扱っているものたちは、作家が個性を表現した作品というよりも、職人が丹精込めて作った『もの』というほうがしっくりきます。己を過剰に出さず、異質にならない『もの』を主役として取り扱っているところは、これからのギャラリーの在り方として、勉強させていただいています」。

「ありがたいお言葉です。おっしゃる通り、日日は職人の手仕事をテーマにしています。豊富な在庫からお客様のご要望に応じられるのも私たちの強みで、全て日日の目線で選んだ『もの』ばかりです。職人さんとは普段から付き合いが深く、仕事場を訪ねることも、特注することもよくあります。お互いに育て合う関係をつくりながら、時間をかけた取組みや新しい挑戦も大事にしたいのです。」と奥村さん。
「『日日』のそういうところに、プロフェッショナルな姿勢を感じるのです。『もの』に対する愛情と厳しさを、ギャラリストと職人がお互い、同じレベルで大切にしている。大人の世界が成り立っています」。

左上から時計回りに、タイポグラフィーだけで表現している展覧会のDM。エルマー・ヴァインマイヤーさんが手がけた書籍や海外での展覧会。シュテファン・フィンクの木の万年筆。カーリン・コルスター・ケリの指輪。海外の作家の品々も多く取り扱う。

左上から時計回りに、タイポグラフィーだけで表現している展覧会のDM。エルマー・ヴァインマイヤーさんが手がけた書籍や海外での展覧会。シュテファン・フィンクの木の万年筆。カーリン・コルスター・ケリの指輪。海外の作家の品々も多く取り扱う。

 

「日日」の展示空間に並ぶ道具は少なく、欲しいものや、見たいもののイメージを伝えて、品物を奥から出していただくという、コミュニケーションを重視したスタイルは独特のもの。購入する方も、やり取りしながら、ものの背景や哲学を知ることで、ものを大切に思う気持ちが芽生えてきます。

ギャラリーに併設されたティールーム「冬夏」。奥村さんが商品開発を手がけたというオーガニックの煎茶と、一人の農家が栽培から製造までを手がけるオーガニックのカカオをいただくことができる。

ギャラリーに併設されたティールーム「冬夏」。奥村さんが商品開発を手がけたというオーガニックの煎茶と、一人の農家が栽培から製造までを手がけるオーガニックのカカオをいただくことができる。

 

素敵なものに出会った後は、まだこの気持ちのいい空間にいたいと思ってしまうもの。そんな時は、玄関口にティールーム「冬夏」があるので一息つくのもおすすめです。

ギャラリーとしてだけではなく、五感を通して「日日」の世界観を堪能してみてはいかがでしょうか。

次回は奥村さんおすすめのショップを訪れます。どうぞお楽しみに。

日日 gallery nichinichi
住所:京都市上京区信富町 298
時間:10:00〜18:00
休廊日:火曜
Tel:075-254-7533
URL:www.nichinichi.com

 

CULTURE

TEXT BY AI KIYABU

PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO

17.04.07 FRI 00:00

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