丹波の作り手たち
風土と創作02 木彫家 福井守

京都府と兵庫県にまたがる形で広がる旧丹波の国、廃藩置県によって2つの府県に別れたこの地は都と近いことから様々な文化が流入し歴史の中で変化しながらも今もその特色を色濃く残す。
 農業地でもあるこの土地の風土と文化が混ざり合い、私たちが当たり前に見ている里山といわれる風景はその担い手たちによって形成され、自然と文化、都市との程よい距離感、伝統的に育まれたもの作りを受け止める気風に惹かれて現代でも多くの作り手たちが活動の拠点を置き、暮らしている。
そこにはただ穏やかで静かな日常だけがある訳でなく、ある種の厳しさや意志も見え隠れする。そこで彼らは日々何を感じ創作に向っているのだろう。 
 3人の作り手のもとを訪ねお話を伺った。

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風土と創作02 木彫家 福井守

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丹波の作り手たち
風土と創作02 木彫家 福井守

丹波篠山、東西に長い盆地の中に丹波黒大豆や米などの耕作地が広がり、山に目を移せば雑木の山々が季節ごとの彩りをたたえている。
その盆地のちょうど中心に篠山城址と城下町の古い街並が残り今でも暮らしの中に当時の様子を窺い知ることができる。

城址のお堀端の桜並木は美しく、そこを散歩するのが木彫家・福井守の日課。
2015年、この篠山の地に活動の拠点を移した彼にいまの暮らしと創作活動について伺った。


ー全部が生活。体の尺度で生活したい。

彼は篠山に移る少し前から木に触れながらの創作活動を始めている。その素材となる木との出会い、巡り合わせは自身で山に入ったり、旅先での収集、人から譲り受けるという自分や知人といった関係性の輪の中から縁あって彼の手に迎えられる。
「篠山の山に入ったり、倒木を取りに行ったりはしますけど、無理に探すというより、近くの山のお気に入りの池のほとりにリラックスしに出かけたついでとか、自分たちの生活の延長の中で見つける事が多いですね。取りに行くというよりかは出会いにいくという感じです。狙って探すぞ!ってなると意外となくて、肩の力が抜けてると巡り会ったりするんです、不思議なんですが。」

彼の手に迎えられた木たちは彼自身の手で大方の形が作られる。「機械は大きな木を切るチェーンソーくらいしか使わないですね。」

彼の手に迎えられた木たちは、自身の身体的尺度で操りやすい道具を使い段々と形になっていく。

山に入る、散歩をする、掃除をする、刃物を研ぐ、創作活動に直接的に関係しそうなことと、そうではなさそうな言葉がお話を聞きながら溢れ出てくる。
創作と暮らしは隣同士にあるものではなくて、彼の中では全てが混ざり合っているように感じた。

「創作だけを抜き出して考えることは難しくて、日課の散歩も、山や川に材料となる木を取りにいくのも、創作活動も、夕飯の時間も、子どもとの時間も、すべて並列で生活の一部という考え方のほうが自分としてはしっくりきますね。当たり前だけれど全部が生活。
煮詰まった時に気晴らしで散歩に出かけて、そこで小さな発見があったり、刃物を研ぎながら心を落ち着かせたり。極端にいうと、昔の人たちの暮らしは生活の流れの中で畑を耕したり何かを作ったりしながらも、薪を拾い、お風呂を湧かすのが当たり前だし、体を動かしながら生活していましたよね。
懐古主義ではないんですが自分もフィジカル、『体の尺度』で創作活動も生活もしているんだと思います。

彼の工房は家のリビングのすぐ横にあるガレージを利用している。 暮らしも創作もまさに地続きな環境。

彼の工房は家のリビングのすぐ横にあるガレージを利用している。暮らしも創作もまさに地続きな環境。

以前暮らしていた土地は山の中過ぎて、自然が強かったという。
家族で篠山に移り住んで4年目、この土地での暮らしで何か変化に気づけたのだろうか。

「山の美しさはもちろんのこと、篠山は視界的に開けていて、いい気が自分たちに入ってくる感覚もあるし、人と土地や文化的なもののバランスがいいと思います。
大きな変化は求めていないんだけど、3年住んでいると地元の祭りとか地域の人とも馴染んできて、だんだん町の一員になってきているなと感じるようになってきましたね。ここは城下町なのでお祭りの手伝いとか、回覧板のやり取りにお野菜頂いたり。
それはもちろんこの土地の風土がそうさせているんだけれど、その風土が自分たちのベースになりつつあって、そこでの生活、さらに言うと創作活動の中で自分のバイオリズムに気づけるようになってきました。」

「篠山に来る前はまだ木を触りだしたばかりで肩に力が入っていて自己表現をしようとしている部分があったのが、なぜかこっちに来てからはそれが薄らいできています。
自分と木との間に作品があるとしたら、以前は今よりも自分の意志の方に引っ張ろうとしていた感覚が強かったけれど、今はもう少し柔軟性が出てきいる気がします。
バランスというのかな、押し引きができるようになってきているというのかな。」

仕上げの作業は細やか。手斧を振り下ろす体の大きな動きとは相反する。最近はより繊細な枝を使った作品も。

仕上げの作業は細やか。手斧を振り下ろす体の大きな動きとは相反する。最近はより繊細な枝を使った作品も。

自分の体の尺度で暮らしや創作と向き合い、その中でどうしてもうまくいかなかったり、手が止まるときは流れに身を任せる事もあるという福井さん、敢えていつもしない事をしてみたり検証の時間に充てることもあるという。ただその姿勢はただ流れに身を任せているだけとは少し違いそうだ。

「『視座』という言葉があるんですが、ある点を指す「視点」や見る角度を指す「視野」とも違うように捉えていて、自分がどこに座るか、自分をどこに据えるのかを考える事はあります。ふと立ち止まって、どこに立って腰を下ろすのか。あまり固定的にしすぎず、変化も受け入れながらですね。『視座』は常に自分の中で動いています。」

手が止まる、流れが止まるということは、ともすると否定的に感じられるけれど、
彼はポジティブにそれを捉え、「視座」と言う言葉とともに流れの中に身を置く、その姿勢にはしなやかな強さがある。

出会った木々と彼との間柄から生まれた作品たち

出会った木々と彼との間柄から生まれた作品たち

この先の創作の展望は?と訪ねると即座に「越境したいんです。」と答えが返ってきた。
「いろんな価値観が世の中にはあるけれど、自分の作品を通して何かを発信し続ける事で壁を下げ、風通しをよくすることをしたい。壁とかジャンルとか関係なく魅力があるものを作りたいですね。」と続けた彼の表情や創作へ取り組む姿勢を見ていると、彼が壁を軽やかに飛び越えている姿が想像できて、また折をみてお話を伺いたくなった。

今日も彼は散歩に出て、何か小さな気づきを見つけているに違いない。

福井 守
1985年 兵庫県神戸市生まれ
2007年 神戸芸術大学卒業
2007年 プロダクトデザイン事務所設立
2014年 独立。日常と彫刻をテーマに木を通した作品制作を始める
2015年 兵庫県丹波篠山市へと活動の拠点を移す
http://www.mamorufukui.com/
個展
「Found object」
2019年2月23日-3月5日
東京は早稲田にある On the shore にて
聞き手:小菅 庸喜
archipelago 店主
1982年、埼玉県鴻巣市生まれ。
2007年、京都造形芸術大学卒業後、アパレルブランドプランナーを経て、2015年独立、暮らしのベースを兵庫県丹波篠山に移す。
2016年、生活道具、洋服、本、家具などを扱うセレクトショップ、archipelago(アーキペラゴ)オープン。 住空間や店舗、ブランド立ち上げなどにも携わっている。
www.archipelago.me

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TEXT BY NOBUYUKI KOSUGE

PHOTOGRAPHS BY KOHEI YAMAMOTO

19.02.26 TUE 23:03

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