徳島と工芸・後編
アーティストと共に進化する阿波和紙 byアワガミファクトリー

グレゴリー・コルベール、サム・フランシス、細江英公、三好和義など、国内外の名だたるアーティストに愛用される和紙メーカーが徳島にある。徳島県を東西に流れる吉野川の中流域、高越山の麓にある「アワガミファクトリー」は1300年の歴史を持つ阿波和紙のブランド。技術と素材力を伝承し、阿波和紙の新しい可能性をアーティストと共に探り続ける「アワガミファクトリー」の目指すところとは。

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アーティストと共に進化する阿波和紙byアワガミファクトリー

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徳島と工芸・後編
アーティストと共に進化する阿波和紙byアワガミファクトリー

グレゴリー・コルベール、サム・フランシス、細江英公、三好和義など、国内外の名だたるアーティストに愛用される和紙メーカーが徳島にある。徳島県を東西に流れる吉野川の中流域、高越山の麓にある「アワガミファクトリー」は1300年の歴史を持つ阿波和紙のブランド。技術と素材力を伝承し、阿波和紙の新しい可能性をアーティストと共に探り続ける「アワガミファクトリー」の目指すところとは。

 

―アートと紙漉きが出会った80年代

「アワガミファクトリー」の母体となる組織は富士製紙企業組合という。唯一残った紙漉き業者である藤森家が阿波和紙の伝統を守り続けるために1952年に組合を創立。阿波和紙ブランドの総称として20年ほど前に「アワガミファクトリー」と名付けた。
現在は機械抄紙・染紙・和紙加工品の製造を行いながら、現代の印刷技術に対応したインクジェット用和紙やインテリア用和紙の開発などにも力をいれている。
1軒になっても商いとして阿波和紙ブランドを確立できた背景には、阿波和紙とアーティストとの出会いが大きいと代表の藤森洋一さんは語る。

「衰退しつつある和紙の需要をどう掘り起こすかを考えた時に目を向けたのが海外でした。国内にはいろんな和紙の産地があり、良くも悪くもつながりがある。つながりの深いところへ割って入るよりも、外の世界へ目を向けた方が勝てる要素があるという発想からでした。今から35年ほど前のことです」

取材日はアメリカのロードアイランド州から来日した芸大生20名が8日間滞在しているところだった。紙漉きや染め紙の体験、和紙の原料となるコウゾの収穫などを行なった。

1980年にはハワイで紙漉きのワークショップを開催。世界中からアーティストや伝統工芸に興味がある人が集まり、技術交換やデモンストレーションが行われた。藤森さんは流し漉きの技術を教える立場として参加し、多くのつながりをつくって帰国する。1982年には京都で開催された国際紙会議にも参加し、国内外のアーティストとの接点が生まれた。
和紙の技術交換や意見交換をするなかでアーティストと密になり、「アワガミファクトリー」の漉き場には世界中からアーティストがのりこんでくるようになった。80年代の動きから生まれたつながりが、作品と和紙の技術が進化するきっかけになっていく。

―平面から立体まで自由な表現を追求

今から約30年前、日本人で造形作家・角永和夫さんと一緒に制作した作品。和紙の中に金属を配置し、金属が錆びていくことで浮き上がってくる予測不可能な線が和紙と調和している。

「アワガミファクトリー」では美術家、写真家、デザイナーなどが滞在しながら制作できる「ビジティング・アーティストプログラム」という取り組みを行なっている。「アワガミファクトリー」が長年培ってきた和紙の技術や知識と、アーティストの創造性が一つになった作品づくりをサポートするというもの。これまでに訪ねてきたアーティストは優に100人を超え、最長1ヶ月滞在することができる。

「アーティストから直接連絡がきて、お互いに話がまとまれば来る者拒まずで受け入れています。制作をするということは密にコミュニケーションをとる必要があるので、人と人の相性や、土地との相性も作品づくりには需要な要素。サポートしているとき時は大変なことも多いですが、リピートして来てくれるアーティストがいることが何よりのやりがいになっています」と藤森さん。

ダニエル・ヘイマン氏がパルプペインティングを描いている様子。

リピートして訪ねるアーティストの中にはアメリカ出身の美術家ダニエル・ヘイマン氏や、ノルウェー出身の版画作家エリー・プレステガード氏など、世界を股にかけて活躍している人も多い。二人に共通しているのは、パルプペインティングという技法で絵を描いているところ。濡れた和紙の上に着色したパルプをおいて描いていく、色と色が交わるところの曖昧な線が、見る人に想像力を膨らませる。

滞在するアーティストの中には1枚の紙を漉き、その上に絵を描くという人もいるが、大半が和紙の特徴を活かして新たな作品づくりを試みるという。それは平面に留まらず、立体的な表現にまで及ぶ。

森美術館で行われた「ネイチャー・センス展」の展示風景。
栗林 隆 《ヴァルト・アウス・ヴァルト(林による林)》 2010年 和紙、パルプ、植物、霧 約570x1900x990cm

「現代美術作家・栗林隆さんと一緒に、紙の素材で白樺の木を制作しました。2010年に森美術館で行われた『ネイチャー・センス展』という展示の作品だったのですが、この時は石膏型をつくりパルプを詰めて形にしていきました。アーティストとのミーティングはいつも真剣勝負、とっさのアイデアがいくつ出せるか。普段は平面の紙をつくっている職人にとって、アーティストが頭の中で考えていることを和紙の技術で表現する落とし所を探るのが一番難しいところです。時間がかかりますし頭を使います。答えの無いものを、決められた時間と予算で実現していくのは大変ですが、サポートする醍醐味でもある」と藤森さん。

ー作品づくりの中から見いだした阿波和紙の個性

「アワガミファクトリー」を代表する和紙の一つに、先代の藤森実氏が推進した「藍染和紙」がある。通常、藍染の液はアルカリ性が強く、和紙をそのまま入れると溶けてしまう。そこで考えたのが紙にこんにゃくのりを塗るという技法。耐水性が高まり、藍液が染み込まないため染色ができる和紙が完成した。藍染の産地としても名高い徳島の阿波藍を使い、和紙に絶妙なグラデーションやぼかしを可能にした貴重な技術は、今も大切に受け継がれている。

アーティストの中には、撮影した徳島県神山町にある滝を「アワガミファクトリー」のインクジェット和紙にプリントし、その上から藍染を施すという、「アワガミファクトリー」の技術をフル活用して表現する人もいる。

伝統を受け継ぐなかで進化してきた阿波和紙。アーティストと一緒に制作するようになってから、阿波和紙の個性を明確な言葉で伝えらえるようになったと藤森さんは言う。

「阿波和紙の特徴は何か?それらしい答えはあるものの、なかなかしっくりきませんでした。それなら自分たちでブランディングをしようと考えました。一般的な和紙のイメージは薄くて新聞紙ほどの大きさだろうと。それに逆行するような大きくて分厚い紙を阿波和紙の個性にしたんです。アワガミファクトリーではこれまでたくさんの大判の和紙を漉いてきました。その中でも一番大きかったのが写真家のグレゴリー・コルベール氏から依頼された横約5メートル、縦約3メートルの特大和紙。私たちは和紙を漉くために、道具から設えています。作家の創造性は、阿波和紙の個性に繋がったように思います。」

これまでアーティストのために設えた紙漉き用の道具の数々。大判の和紙は全て手漉きでつくっている。

阿波和紙の個性を活かしたアワガミファクトリーの商業用品の中には、和紙でタイル風に表現した壁紙がある。アーティストと一緒に模索することが柔軟な発想につながり、制作するプロダクトにもいい影響を与えていると藤森さんは語る。

タイル風に加工した壁紙用の和紙。

経済的な観点や効率を求めることで工芸の世界でも量産のものづくりは行われているが、自由なモノづくりの中だからこそ技術が磨かれていくことを「アワガミファクトリー」は証明している。アーティストのイマジネーションがふくらんでいくように、「アワガミファクトリー」の新しい和紙もどんどん広がっている。

紙は素材の一つ。素材として「アワガミファクトリー」にしかつくれないもの、新しいものをつくっていきたい。その熱い思いが、これからも伝統的な新しい和紙を育みつづけていく。

アワガミファクトリー(阿波和紙伝統産業会館)
徳島県吉野川市山川町川東141
9:00〜17:00 月曜休み(祝祭日の場合は火曜日)
一般300円/学生200円/小中学生150円
0883-42-6120
https://inbetweenblues.jp

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TEXT BY YUKI NISHIKAWA

PHOTOGRAPHS BY MASAYA YONEDA

19.04.16 TUE 20:24

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