TOP CRAFTS NOW SHOP 工芸ショップ数珠繋ぎ Vol.1「ギャラリーYDS」
ただ売るだけじゃない。作家がチャレンジできる場所

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工芸ショップ数珠繋ぎ Vol.1「ギャラリーYDS」
ただ売るだけじゃない。作家がチャレンジできる場所

素敵な手仕事に出会える工芸ショップがたくさんある京都。この記事では、目利きの店主がいるショップを数珠繋ぎで紹介していきます。スタートは、手描友禅染の老舗「高橋徳」が営む「ギャラリーYDS」。自身が職人でもある店主の高橋周也さんにお話を伺いました。

常設展が行われている 3階のスペース。皮工場で使われていた古いなめし台や、薬箪笥などアンティークの什器が使われている。奥のデスクは周也さんの仕事スペース。

常設展が行われている 3階のスペース。皮工場で使われていた古いなめし台や、薬箪笥などアンティークの什器が使われている。奥のデスクは周也さんの仕事スペース。

 

陶芸家・清水志郎との出会いが器に対する考え方を変えた

「ギャラリーYDS」は明治32年創業の手描友禅の老舗「高橋徳」が、工房の来客スペースなどを利用し、2011年にオープンしたギャラリーです。陶芸、ガラス、木工、漆、金工など器を中心としたセレクトは、どれもハイセンスで使いやすいものばかり。ていねいな暮らしを求める人々をはじめ、若手の料理人や海外の方々からも人気を集めています。

「ギャラリーを始める前は、器なんて少しも興味がなかったんですよ」といきなり衝撃的な告白をしてくれた周也さん。「加賀友禅の工房で働いていた頃、九谷焼など伝統工芸の器を見る機会が多くありましたが、使う気になれないし、もらっても困るし、自分には関係のないものだと思っていたのです」。

ところが、陶芸家の清水志郎と出会い、器に対する考えが変わったそう。「使いたい、欲しいと素直に思える焼き物に初めて出会ったのです。彼はギャラリーを始めるにあたってキーパーソンとなりました」。

左上から時計回りに、黒谷和紙作家・ハタノワタルのステーショナリー、Re:planterの照明器具シリーズ「SpaceColony」、ガラス作家・伊藤太一のレースグラス、韓国人作家の崔在皓(チェ・ジェホ)のお猪口。器を中心に、現代の人々が日常で使いやすい品々を取り扱う。

左上から時計回りに、黒谷和紙作家・ハタノワタルのステーショナリー、Re:planterの照明器具シリーズ「SpaceColony」、ガラス作家・伊藤太一のレースグラス、韓国人作家の崔在皓(チェ・ジェホ)のお猪口。器を中心に、現代の人々が日常で使いやすい品々を取り扱う。

 

車中泊で10日間、京都から東北まで工房巡りの旅へ

ただギャラリーで売るだけではなく、工房を訪ね作家や作品の理解を深めることを重視しているという周也さん。現在開催中の展覧会「~Permanent Collection~旅する作品展」(2016年10月1日~2017年1月31日)では、周也さん自ら全国各地の工房を巡り、知人の作家の新作や新しく出会った作家のものを常設展に少しずつ加えながら展示しています。周也さんが旅に出るごとに変化し、そのアンテナが直に反映されるホットな展覧会となっています。

「つい先日も10日間くらい旅に出ていました。京都をスタートして長野、山梨、東京、埼玉、群馬へ行き、福島の郡山、さらに仙台まで。それから台風の中、東京へ戻り、軽井沢と松本に寄って、京都へ戻ってきました。経費削減のことも考えて車中泊をしながら旅をしていますが、一番の目的は、下道を通ることでの新たな出合い、自炊も愉しみながらの旅です」と周也さん。途中、風邪をひいてしまったことや、作家さんの優しさに触れた話を交えながら、旅の収穫を語ってくれました。

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写真(上)薬箪笥の中にも器が収納されている。「少量残ったお皿はここに置いているのです。たくさんの引き出しがあるのに、不思議なことにお客様が開けるのはいつも同じ引き出しばかり」。 写真(下)デスクで茶碗を愛おしそうに眺める周也さん。たくさんの職人と共同生活を送っていた少年時代や、山中の学校で寮生活していた学生時代を経てたくましく育ってきた。限られた状況でいかに工夫するかなど、サバイバル能力は人一倍高い。

写真(上)薬箪笥の中にも器が収納されている。「少量残ったお皿はここに置いているのです。たくさんの引き出しがあるのに、不思議なことにお客様が開けるのはいつも同じ引き出しばかり」。
写真(下)デスクで茶碗を愛おしそうに眺める周也さん。たくさんの職人と共同生活を送っていた少年時代や、山中の学校で寮生活していた学生時代を経てたくましく育ってきた。限られた状況でいかに工夫するかなど、サバイバル能力は人一倍高い。

 

「ここでしかできない展覧会」に作家と一緒にチャレンジ!

周也さんが手に取りうっとりと眺めるのは、今回の旅で仕入れた栃木県益子町の作家・鶴野啓司の茶碗です。「これで抹茶をいただく日々を想像したら、たまらなくわくわくして……」。

2012年の春から益子に20回近く足を運んでいる周也さん。「個人の陶芸作家が他の産地と比べて圧倒的に多く、モダンなものから土臭いものまで幅広い焼き物に出会えるのが魅力です」。何度も訪れるなかで、鶴野啓司の器に魅了されていったといいます。来年はYDSで初個展も予定しているそう。

「うちでやる展覧会は、ただの販売目的の展覧会ではないんです。鶴野さんとは、ここでしかできない展覧会に一緒に挑戦していきたいと思っています」。

周也さんお気に入りの鶴野啓司作『益子ボクリ土』。益子の原土を自身で掘り、作品化したもの。「本来は焼きものに向かないとされている土で、上手く完成しても水漏れをする確立がとても高いのですが、その焼き上がりは、いわゆる焼物に向いているとされる土では見ることの出来ない魅力的な器になります」と周也さん。

周也さんお気に入りの鶴野啓司作『益子ボクリ土』。益子の原土を自身で掘り、作品化したもの。「本来は焼きものに向かないとされている土で、上手く完成しても水漏れをする確立がとても高いのですが、その焼き上がりは、いわゆる焼物に向いているとされる土では見ることの出来ない魅力的な器になります」と周也さん。

 

周也さんが言う「ここでしかできない展覧会」とはいったいどんな展覧会なのでしょうか。これまでYDSでは、異なるジャンルの作家のコラボレーションのほか、3畳分の畳を取り除いて苔を敷き詰めた「苔の茶室」を作ったり(※1)、陶芸家・尾形アツシが作陶に使う嵯峨野の原土を大量に中庭に運び込んだり(※2)と、力の入った展示が行われてきました。

「『売れなかったらどうしよう』とギャラリーと作家が遠慮しあい、思い切ったことができないのは残念なこと。注目されてこなかった器シリーズを出品してみたり、チャレンジが可能な場所でありたい」と熱く語ります。

※1 Re:planter × 清水志郎二人展「~去~」2015 年12月6日~12月12日開催
※2尾形アツシ × みたて「— 土の気配Toke —」2016 年7月2日~7月10日開催

1階の中庭にも作品が並ぶ。尾形アツシ× みたての展覧会ではここに原土が敷き詰められた。展示の後、その土は左官職人の手により3階カウンターに塗り込められた。

1階の中庭にも作品が並ぶ。尾形アツシ× みたての展覧会ではここに原土が敷き詰められた。展示の後、その土は左官職人の手により3階カウンターに塗り込められた。

 

ただ、モノを見るだけではなく、素材が何であるか、どこで作られたか、作っている人はどんな人柄かなど、モノの背景にある物語を、現地に足を運んで見ているからこそ、周也さんの周りには魅力的なモノが集まるのかもしれません。そして、ただ良いモノを並べるだけではなく、工夫して面白い展覧会を作ろうと作家と一緒に挑戦する姿勢に、このギャラリーの面白さを感じます。

YDSではほかにも、台湾茶道の教室も行われています。「偶然出会った台湾茶のPeruさんの人柄に惚れ込み『この人のお茶が飲みたい!』と思って。お茶を語る言葉がよく理解できるもので、淹れている姿もとても素敵なのです」と周也さん。

台湾茶道教室が行われているバーカウンターは、様々イベントにも活用されます。中庭をのぞむ廊下や広い畳の部屋など、空間を歩いているだけでも見所がたくさんあるYDS。今後もここでどのような試みが行われるのか、目が離せません。

お店は新町通二条を北へ行ったところにある。京都の老舗らしく立派な門構えだけれど、中に入るとスタッフの方々が優しく迎え入れてくれる。

お店は新町通二条を北へ行ったところにある。京都の老舗らしく立派な門構えだけれど、中に入るとスタッフの方々が優しく迎え入れてくれる。

 

次回は周也さんおすすめの工芸ショップを訪れます。お楽しみに!!

ギャラリーYDS
住所:京都府京都市中京区新町通二条上ル二条新町717
時間:11:00〜18:00
休廊日:日曜・祝日・第2土曜(予約の場合は営業)
※ギャラリー展示期間中は無休
Tel:075-211-1664

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TEXT BY AI KIYABU

PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO

16.11.07 MON 15:29

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