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INTERVIEW

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三味線職人・野中智史インタビュー 作り手と弾き手。ふたつの顔で伝統を支える

多くの作家が暮らす京都・東山の町家長屋「あじき路地」。野中智史さんは、その一角に自宅兼工房を構え、三味線職人として活動している。三味線を製作する一方、奏者としても幅広く活躍中だ。賑やかな花街と縁の深い工芸ながらも、その背景には実直でひたむきなモノ作りへの姿勢が貫かれていた。

昔ながらの京町家で、野中さんののみの音が優しく息づく

昔ながらの京町家で、野中さんののみの音が優しく息づく


野中智史/三味線職人
1982年、京都生まれ。幼少のころから三味線を始める。専門学校へ進学後、三味線製作を開始。2008年、京都・東山のあじき路地で工房を開設。現在は三味線製作のほか、座敷やイベント等で演奏なども多数行う。

硬木を削る工程は繊細な技術力に加え、力のいる作業でもある

硬木を削る工程は繊細な技術力に加え、力のいる作業でもある

 

――――野中さんのように三味線の作り手でもあり、奏者でもある職人さんは珍しいですね。

小さい頃から三味線に触れていました。親戚の影響で、踊りや能などを習っていましたが、三味線のお稽古だけずっと続けられたんです。身近にある楽器だったから、なんとなく作りたいと思うようになりました。

作ることと弾くことの双方を理解しているのは、良かったと思うことが多いですね。僕にとって三味線は、“伝統工芸”としてより“楽器”としての思いが強いです。自分で弾けることで、音の仕組みがより細かくわかるようになります。原木の硬さと音質のつながりを熟知した玄人相手の仕事ですので、自分も理解を深めないといけません。

「こんな音が良い」とドンズバの音色のリクエストをいただくこともあるので。また、木のゆがみはすべて音に出るんです。私たちは“びゃんつく”と言いますが、にごった雑味のある音になってしまいます。気候の変化なども音色に影響しますので、新しく作るだけではなく調律や修理を請け負うことが多いですね。

鉋を丁寧にかけ、砥石で研ぎツヤと精度を出す

鉋を丁寧にかけ、砥石で研ぎツヤと精度を出す

 

――――作り手としては、どのような工程を手掛けていらっしゃるんですか?

ほとんどの工程を一人で行います。京都の特有は柳川三味線※。一本の木を削って三味線の棹を作り、胴部を接着して仕上げてゆきます。棹を製作する職人は、京都では親方(今井三絃店五代目・今井伸治)と私だけで、全国にも20人に満たないと聞きます。

使用する原木は紅木(こうき)が主流で、芸舞妓さんのお稽古用にはカリンの木が一般的です。使用するのは硬木ですので専用ののみを使用し、前肩の力でのみを支えて削ります。砥石で研いでツヤ出しを行なえるのも、硬い木だからこそ。棹を3本に分解する構造は、ほかの弦楽器にはないですよね。芸妓さんが持ち運びやすいようにそうなったと言われています。三味線の一番の魅力は音色ですが、曲の途中で意図的に調弦を変えてメロディーラインを変化させられるのも、3本の糸しかない三味線ならではの技法です。

※柳川三味線:京都のみに伝承されている地歌三味線の流派

1本の荒木から3分割された棹は、精密な“継手”の仕組みによってつながれる

1本の荒木から3分割された棹は、精密な“継手”の仕組みによってつながれる

 

――――現在は職人としてだけではなく、奏者としてもさまざまなイベントで活躍されていますね。

ひっそりとではありますが(笑)、ありがたいことにご縁が広がっています。今から10年ほど前、以前からお付き合いのあるお茶屋さんから「お座敷で三味線を弾いてほしい」と依頼されたことがきっかけでした。数年ぶりに人前で演奏し、歌も歌いました。以来、色々なお茶屋さんからお声がけをいただけるようになったんです。お座敷やお料理屋からのオファーが多いですね。外国人の方が集まるパーティーといったイベントに行くこともあります。

――――具体的などんな曲を演奏されることが多いですか?

お茶屋ではお座敷遊びで演奏し、舞妓さんや芸妓さんが踊る曲は弾きません。それは、地方さん(じかた、三味線や歌を担当する芸妓のこと)のお役目なので。このお座敷遊び、ベタな「こんぴらふねふね」や、お客さんが一緒に踊ったりお芝居をする「チャリ舞」など、パターンは山ほどあって面白いんですよ。

古くから花街にいらっしゃる常連さんが多く、昔の遊び方を教えていただくこともしばしばです。お客さんからのリクエストで即興で歌うこともありますし、お客さんが作った歌を歌わせていただいたこともあります。賑やかで楽しく、三味線が流れているあの雰囲気が大好きですね。

棹を作れる職人は国内で年々減少の一途をたどる

棹を作れる職人は国内で年々減少の一途をたどる

 

――――野中さんの活動によって、三味線の魅力に触れられる機会が増えそうですね。

お酒の場に直接行って演奏するほうが、手っ取り早く知ってもらえる良い機会になったりするんです。半年に1度、有志を募って食事しながらお店に芸舞妓さんを呼ぶ会を行ったりもしています。

花街にご縁を持つ人間として、若い方々にもっと芸舞妓文化や三味線の音を知っていただきたいです。下の世代が育っていない今の状況を何とかしたいという思いもありますね。営業も御用聞きも、すべてを自分でやらなければいけないという厳しい世界ではあります。

「これが正しい」という教科書はないですが、花街の姉さんたちから口伝いにたくさんのことを学べるこの環境は幸せですね。

INTERVIEW

TEXT BY CHIKAKO ICHINOI

PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO

16.11.07 MON 18:15

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