TOP CRAFTS NOW INTERVIEW 伝統工芸の仕事ライフvol.5
目指すのは「旅する職人」|漆職人・柴田親子インタビュー

INTERVIEW

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伝統工芸の仕事ライフvol.5
目指すのは「旅する職人」|漆職人・柴田親子インタビュー

2017年5月、アウトドア漆器ブランド『erakko』を立ち上げた若き漆職人・柴田明。彼の父もまた、この道53年のベテラン漆職人だと知り、俄然親子の話を聞きたくなった。「折角なら自然の中で」と誘い出した先で、若手の挑戦とベテランの眼差しに、現代における継承のひとつのケースを見た。
働くとは何か? 自分の時間の使い方って? 仕事を辞めるまで「旅すること」に魅入られた一人の若者が、旅の中で人生を見つめ直した先にあったのは漆職人である父の姿だった。(聞き手:野口卓海)

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柴田 明(右、息子):大学卒業後に会社勤めと自転車旅を繰り返してから、父・柴田道雄の弟子になる。二代目として修行をしながら、「旅の道具を作りたい」と2017年自社ブランド『erakko』を立ち上げる。漆塗りの修行と並行し、自社ブランドのため木地の製作も独学でスタート。

柴田 道雄(左、父):京都・山科にて「柴田漆工房」を構える、この道53年のベテラン塗師。

 

・まずは、漆の世界へ入ろうと思ったきっかけから教えてください。

明:漆の仕事を継ごうと決めたのは2015年の秋なので、だいたい一年八ヶ月ぐらい前。まだまだ駆け出しです。決意した一番大きいきっかけは、やっぱり自転車で日本中を旅したことでした。旅の最中には、いろいろ本を読んだりして・・・ミヒャエル・エンデや星野道夫などに影響を受けましたね。

道雄:ちなみに私はそれらの本を読んだことはないですが(笑)

明:効率化しすぎる社会の仕組みとか、それはそれでもちろん必要なんですけど、もともと持っていたそういうことに対する違和感や疑問みたいな部分が、より明確になったというか。「自分で自分の時間を納得して使いながら働く方法」も、あるんじゃないかと思うようになりました。その答えをずっと考えているときに、一番身近だった父親が続けてきた「手仕事」を再発見した感じでしたね。

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取材場所について、まずは用意していたコーヒーを明さんに淹れてもらった。

・道雄さんは、その話を聞いて最初どういった印象を抱きました?

道雄:やっぱりどっちか言うと不安でした。むしろ、やめといた方がええ、と。

明:最初はすぐに止められました(笑)

道雄:今は他にもっと自分の目標を手に入れる方法があるんじゃないかなと、まずはそう伝えましたね。

明:その目標を、自分は漆の仕事の中で見つけられるのではないか、そこでこそ見つけたいと思ったんです。

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学生時代にはワンダーフォーゲル部に所属していたという道雄さん。外遊びに関しても明さんの大先輩だ。

道雄:私は叔父が漆の仕事をしていた関係で、この世界に入ったんです。その頃は漆の仕事があまりに忙しく、「手が足らない、器用そうだから来てくれ」ということで半ば引きずり込まれたようなものでした。当時はやっぱり、それぐらい仕事も多かった。そうやって、気がついたら53年。でも、今にして思えば、よくこの仕事と出会えたなと思います。他の仕事なんてちょっと考えられないぐらい、自分には天職でした。

明:物心ついた時から父の仕事を見ていたので、「手仕事」とか「伝統工芸」とか、むしろ意識したことがなかったですね。自分が継ぐみたいな想像も全くなかったですし…三人兄弟の末っ子なんですが、兄二人からもそんな話が出たことさえなかったです。

道雄:どこかで「誰かに継いで欲しい」という気持ちもありましたが、口に出したことはなかった。これまでも何人か弟子を志願してきたけど、正直に「何の保証もないから、やめておきなさい」と伝えてきました。でも、実の息子に「アルバイトしてでもいい、すぐに食べれなくてもいい、仕事を教えて欲しい」と言われると、「それなら…」という感じでした。

明:まあ、僕はあんまりはっきり覚えてないんですけど(笑)

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道雄さんの塗りの仕事は基本的に茶道具がメイン。今回は普段の仕事の参考として合鹿椀を持参して頂いた。

明:手仕事は厳しい道のりだと知るばかりですが、それでも自分の時間というものを深く感じられるはずだと、それは今も実感しています。会社を辞める時ってよく、「どこに行っても苦労するぞ」とか言われたりしますよね。まあでも、それならばいっそ、自分が一番納得できる苦労をしたいなと。

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道雄さんから「コーヒーのお礼に」と野点のご提案があり、しばし一服。

・明さんのそういう憧れみたいな気持ちは、非常によくわかります。だけど、現実問題としての厳しい部分も、伝統産業を取り巻く状況としてありますよね?

道雄:間違いなく漆の仕事は減ってきてます。ただ、数十年前の一番苦しかった時期に比べると、深い興味を持ってくれる人たちが徐々に増えてきている、という兆しを感じますね。それぞれが自立した価値観で、良し悪しの判断を持てる時代になりつつあるのかな。そういう意味でも、明がやろうとしていることは、時流として効果的なんじゃないかと思ったりしますね。

明:「継ぎたい」と話した時、父が「これから先、今までと同じように仕事をしていたら、いずれ仕事も減ってもっと厳しくなる。だから、必ず自分から発信できる何かをしなさい。」と言ったんです。それが凄くありがたくて。それで、旅やアウトドアで使う漆器のブランドとして『erakko』を立ち上げたんです。技術は伝承しながら、見せ方を変えるようなことができないかなと思って。

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『erakko』の第一弾商品である「おとも椀」。

・『erakko』を立ち上げていった経緯について教えてください。

明:父の元で塗りの仕事を手伝い始めて、おぼろげに”アウトドアで使う漆器”という形を思い立ちましたが、もちろん商品開発するような資金はない。そこで自分でロクロを回して、木地から作ってみることにしました。

道雄:私の仕事仲間の木地師に連絡を取って、見学させてもらったりしてね。

明:材料や機械も自分で探して購入したりしましたが、どうしてもわからない部分もあったので頼みこみました(笑)機械の使い方や根本的な技術ももちろんですが、道具の手入れなんかも教えてもらいたくて。

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一般的なコッヘルに二つ重ねて収納できるなど、機能性も重視。旅の経験が活かされている。

明:そこから半年ぐらい時間をかけて、基礎的な技術を積むところから始めました。それでも、悩みつつ進んでいくにつれて、いろんな壁に当たり始めて…そこで京都市産業技術研究所の竹浪さんにご相談したりして。

・そういう若手職人をフォローできるシステムがあるのも、京都の厚さですよね。

明:竹浪さんもアウトドアがお好きだったこともあり、「絶対に形にしよう」とまで言ってもらって…おぼろげに抱いていた『erakko』のイメージを実現していくプロセスをとても親身に助けていただきました。木地も、一般的な材木屋さんではとても原価と見合わないので、いろんな場所を探し回りながら直接交渉して。

道雄:竹浪さんともそうやけど、木地とも出会いやね、やっぱり。

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手前がケヤキ、奥がカエデを木地としている。それぞれ木の個性が出るよう仕上げられた表情が魅力だ。

明:漆って「天然の塗膜」という部分に凄く魅力があると感じているので、そういう「自然から生まれてきたものの良さ」が伝わるようなものづくりが、『erakko』を通して出来たらと思ってます。だからこそ、木目が見える塗り方をすることで、木と漆の相性の良さが出したかった。

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なんとこの日が親子では初めてのキャンプになったそう。

・今後の展望とかはありますか?

明:実は「旅する職人」みたいなことを目指していて。各地の技術とか素材とか職人と旅の中で出会いながら、商品開発ができないかなと思ってます。手に技術のある職人だからこそ、どんどん外へ出歩いて仕事ができるんじゃないかな。

・そういう発想って、道雄さんの時代はなかったですよね?

道雄:いや、実はやっぱり私も同じようなことをしてましたよね。産地に行ったり、各地の職人たちとつながりを持ったり。輪島とか河和田とかあちこち出向いて、仕事を見せてもらいました。外に向かって出て行って、自分の仕事に生かす。タイプが分かれるけど、そういう働き方はありましたよ。

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明:やっぱり、どこかで自分も「旅」と仕事を繋げたい。出来ていくまでの物語が宿るようなものを、作り続けたいです。

道雄:仕事にはそういう「夢」がないとね。大会社とかじゃなく、手仕事だからそれができるんです。でもね、だからこそ、たくさんの壁がある。いくつもいくつも、これから明の前に出てくると思う。

明:途方もない挑戦をしてる気もしますよね、時々。

道雄:私は技術の習得とか継承に関しては、今の時代に合う方法がたくさんあると思う。道筋は違っても、案外前の世代と同じようなところに到達するんちゃうかなと思いますけどね(笑)だから、やっちゃえと。親としても、師匠としても、それだけです。

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INTERVIEW

TEXT BY TAKUMI NOGUCHI

PHOTOGRAPHS BY MASUHIRO MACHIDA

17.08.10 THU 21:49

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