地域の魅力を体感するイベントが、地場産業復活の鍵になる
−燕三条 工場の祭典 前編−

各地で伝統的なものづくりの振興を軸とした地域活性化を目指すイベントの開催が相次いでいる。取り組み手法はさまざまだが、集客やブランディング効果において明暗が分かれている。
本稿では、目覚しい発展をみせている工芸イベントの事例から、地域のブランディングとものづくり振興の関係性を読み解く。

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−燕三条 工場の祭典 前編−

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地域の魅力を体感するイベントが、地場産業復活の鍵になる
−燕三条 工場の祭典 前編−

三条市、燕市を舞台に2013年から始まった「燕三条 工場の祭典」は、新潟県三条市・燕市全域及び周辺地域にある工場を4日間にわたって一斉に開放するイベントだ。製造業の「工場(KOUBA)」に加えて、農業を営む「耕場(KOUBA)」、物販をおこなう「購場(KOUBA)」が参加。「ものづくり」に新しい視点を加えることでエリア全体の魅力をさらに伝える内容だ。

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2016年開催時の様子

■「燕三条市 工場の祭典」(新潟)

新潟県のほぼ中央に位置する燕三条地域(三条市、燕市)は人口合計約18万人ながら「日本で一番社長が多い街」と呼ばれるほど、小規模な企業が集積するエリア。とくに江戸時代に興った和釘製造にルーツを持つ鍛冶業・金属加工業は、刃物や食器、機械部品に至るまで幅広く手掛け、世界屈指の金属加工産地として知られている。

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2016年開催時の様子

「開け、KOUBA!」と銘打って始まったこの取り組みは、初年度から1万人(5日間の来場者数合計)を集客して多くの注目を集める。2年目には約13,000人(2年目以降は4日間の来場者数合計)、3年目は19,000人超え、4回目となる2016年度は35,000人を突破した。また、参加工場も年々増加(1年目54箇所、2年目59箇所、3年目68箇所、4年目96箇所)し、地域内での波及が成功していることもわかる。

■「工場の祭典」2017年の開催情報

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©「燕三条 工場の祭典」実行委員会

–2017年度開催概要—
開け、KOUBA!燕三条に丸ごと触れる秋の4日間
「燕三条 工場の祭典」 http://kouba-fes.jp/
【開催期間】2017年10月5日(木) ― 10月8日(日)
【開催地】新潟県三条市・燕市全域、及び周辺地域
オフィシャルツアー詳細はこちら(http://kouba-fes.jp/tour-2017/) 

5回目の開催となる今年、その規模はさらに拡大し103箇所ものKOUBAが参加する。その種類は多岐に渡り、燕三条地域の代名詞ともいえる金属製造事業所から、木工所、農園、果樹園、珈琲店まで、このエリアが既に持っている魅力を最大限引き出すようなラインナップだ。

それでいながら立ち上げ当初の趣旨から外れることなく、ひとつの通底したイベントとして見せる力学こそ、「燕三条 工場の祭典」が多くの人を魅了している由縁かもしれない。「この”場”へ足を運んでくれさえすれば、ものづくりの魅力は十分に伝わるはず」という強い信念が、これまでの開催を通して地域全体で共有されたひとつの成果だろう。

また、一人から気軽に楽しめる有料のオフィシャルバスツアーも、今年は全12種類が用意されている。各コースごとには個性的なガイドが用意され、ツアーでしか出会えない魅力もあるだろう。既に定員に達してるコースも幾つかあり、今年も大変人気を博している様子だ。広い地域を巡り、様々な「ものづくりの現場」を体感することも、「工場の祭典」の醍醐味のひとつである。

オフィシャルイベントとして、新潟県以外の産地を紹介する取り組み「産地の祭典」が今年からスタート。国内だけでなく国外からも参加を呼びかけ、有田・波佐見・鯖江・台湾・インドなど11のブースが出展する。「ものづくりの聖地」である燕三条が、手仕事の未来を率先し提案していくような次の動きもはじまりつつある。

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2016年開催時の様子

■「燕三条 工場の祭典」2016年のレポート

7000円の爪切りが、1万円を超える庖丁が次々と売れていく。販売を主目的としたイベントではないにしろ、これまで「魅力が伝わりにくい」と伸び悩んできた商品が多くの人を魅了する様子はあらためて産地と職人たちを勇気づけている。

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2016年開催時の様子

「燕三条 工場の祭典」全体の監修をおこなう山田遊さん(株式会社method)はバイヤーとして多くの販売現場に関わってきた経験から、「ものづくりの背景」を伝えることの大切さを痛感。三条市の後継者育成事業「育成塾」に講師として関わるなかで、燕市の事業者にも呼び掛けをおこない、両市の有志と共に「燕三条 工場の祭典」を立ち上げた。

「ものの価値を伝えるには、実際に製品が誕生する過程を見てもらうのが一番。どんな場所で、どんな職人さんが、どんな技術でつくっているかを知ってもらうと、手仕事の価値を『正しく』実感してもらえる。家族経営の小さな工場や、OEMや卸販売専門の工場も含めて燕三条のものづくりなんだから、それをそのまま楽しんでもらおうと考えたんです。第1回目の頃に職人さんたちにお願いしたのは『工場と一緒に、心も開いて』ということ。普段は無口でシャイな職人さんでも、この4日間だけは工程や技法の解説や、地域の良さを話す役割がありますからね。それさえ実現していれば、来場者数なんて気にならない。数字にあらわれない部分にこそ成果があるし、一番大切なのは燕三条地域に多くの工場を見学に来るという状況そのものですから」

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2016年開催時の様子

後編へつづく

SPECIAL

TEXT BY YUJI YONEHARA

PHOTOGRAPHS BY SHINGO YAMASAKI

17.09.21 THU 18:35

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