TOP CRAFTS NOW INTERVIEW コロナ禍で始まった「オンライン工房訪問」
その役割と可能性ってなんだろう。

INTERVIEW

コロナ禍で始まった「オンライン工房訪問」
その役割と可能性ってなんだろう。

京都府下にあるさまざまな工房の現場を訪ね、職人たちの声をリアルタイムで届ける「オンライン工房訪問」。現場とオンラインでつながった観覧者は随時、気になることを尋ねたり、ときには中継カメラへの注文が入ることも。
これを主催するのは「DESIGN WEEK KYOTO(※1)」や「KYOTO KOUGEI WEEK(※2)」など、これまでにも京都の工芸を広めるさまざまな企画や活動に携わってきたCOS KYOTOの北林功さん。「オンライン工房訪問」のここまでの手応えや可能性について、北林さんに聞いた。

(※1)DESIGN WEEK KYOTO
京都のモノづくりの現場をオープンにし、国内外から訪れる人たちの交流を促進することで新たなモノやコトを創出するイベント。今年は新たな取り組みとして、オンラインを使った職人との対談や工房訪問が行われている。                   

(※2)KYOTO KOUGEI WEEK
さまざまなイベントや企画を通して京都の伝統文化と先端技術を表現し、つないでいく場。京都を中心に、全国から伝統的な背景を持つ作り手の商品が集まる見本市&展示販売会「DIALOGUE」を毎年開催している。

 

オンラインでの発信はスマホがあればできること。
その啓蒙活動も兼ねて。

――コロナ禍のなか、北林さんが「オンライン工房訪問」をはじめられたのは、どういう思いからだったのですか?

北林 : もともと今年は「KYOTO KOUGEI WEEK(以下、KKW)」の一環として、いろんなバイヤーやクリエイターの方たちと京都府内のものづくりの現場を訪れるツアーを実施したいと思っていました。職人さんたちとの交流から、新しい仕事につながる場をつくろうということは去年の段階で決まっていたのですが、コロナの影響でそれができなくなってしまって。
そこで今できることを考えてオンラインにシフトチェンジはしましたが、単純に「リアルでできないからオンラインでやりました」だとどうしても安直に見えてしまうし、コロナが落ち着いたら元に戻すというのもちょっと違うなという思いが僕の中にはあって。オンラインをリアルの代替と捉えるのか、オンラインならではのやり方があると捉えるかでは進む方向も違ってきますよね。

――確かに今、オンラインでの展覧会や交流の場は増えていますし、京都は観光客が多かった分、長い目でオンラインの使い方を考えていかなければいけないのかもしれませんね。

北林:京都は観光地として人気があることに甘えてきた部分があると思います。僕たちがやっている「DESIGN WEEK KYOTO(以下:DWK)」というイベントに来てくれている人たちの7割は関西からで、移動に制限のなかった頃でも、他府県からは3割ほどしか来ていませんでした。でも、そのイベントをオンラインで始めてみると、距離に関係なく北海道や沖縄からも参加する人がいて、その頃から「オンラインだと距離がゼロになる」ということは感じていました。
それが国内に限らず、世界中の人の間で“当たり前化”したことが、コロナ禍がもたらした最大の変化だなと思います。だから、そういったコミュニケーションツールが浸透している間に新しい交流の仕方を模索し尽くしておこうと思ったんです。そうすれば、リアルが戻ってきたときにもオンラインを上手く活用したリアルのあり方を提示できるのではないかなと。

――今は個人で発信する職人さんたちもいる中で、「オンライン工房訪問」ならではの特徴はありますか?

北林 : あえてスマホで中継するということにはこだわっています。正直、お金をかけて機材を入れればクオリティを上げることはできますが、僕がスマホで撮影している様子を見た職人さんは、「スマホだけでできるんですか?」とびっくりされるんです。だから、これは啓蒙活動の意味もあって。彼らがそれに気づけば、今後も自分でどんどん発信できるようになりますよね。
また、同時性を大事にしたいので、あえてすべての内容のアーカイブ配信をしていません。実際にビジネスにつながるような深い話は、その場に参加した人しか知ることができないことに意味があると思っているからです。そこはリアルと同じです。

 

――「オンライン工房訪問」はB to B(企業が企業に向けて商品やサービスを提供する取引)の企画として、視聴者を制限されているのでしたね。

北林:地場産業の世界では今も、技術的な部分に対して決まりやルールがたくさんあり、誰が視聴するのかを気にされることも多いのですが、「残らないのであれば安心して話せます」とおっしゃる方もいて、それによって引き出せる情報もあるし、それこそが僕の役割だとも思っています。一般向けではなく、観る人をあえて絞り込むことによって話の内容が深まることも実感しているので、今年はB to B向けのオンラインの取引や関係の持ち方というものをトライアルしていこうと思っています。

――現場で見せようと意識していること、その中で難しいと感じていることはありますか?

北林:やはり匂いや感触、工場全体の熱量といったものを伝えるのは難しいですよね。現場に漂う熱量は全方位から感じるものですが、やっぱりその場に立たないとわからない気配だったりするので。できる限りそういうことも言葉で補うようにはしています。

――何度か配信をやってみて、やはり実際に来てもらうしかないと感じているのか、どうにか今後もオンラインで伝えていきたいと思っているのか……どちらの気持ちが強いですか?

北林 : そのせめぎ合いですね。言葉に感嘆符をつけたり、スタッフが驚いている様子を映したり、できる限りいろいろな方法で伝える努力をし尽くした先に、「これ以上はもう、見に来てもらわないと無理だな」というラインが見えてくるのだと思います。
コロナの状況にもよりますが、人数を絞って実際に足を運んでもらうことも、だんだんできるようになってきていますよね。B to B自体がもともとそういう取引の仕方でもあるので、リアルが戻ってきたとしても、今後はオンラインのやりとりでお互いの関係性を構築してから訪問したり、ビジネスに取り組むという流れになっていくのではないかと思います。

――職人さんたちの反応はいかがですか?

北林 : ウェブの検索回数が増えたり、実際に素材サンプルを渡すような流れがあったという話を工房の方から聞きました。やはりまず、世の中にこういう人や技術が存在すると認知してもらうことが大事ですよね。DWKなども同じですが、何年か経って「そういえばあのとき会いましたよね」という話から関係性が深まることもある。そういう場を増やしていけば、地域の産業の活性化にも繋がるし、おそらく今後のビジネスの形になってくるのではないでしょうか。

 

京都市だけでなく、京都府の全域に
魅力的なものづくりや職人たちがたくさんいる。

――やはり「オンライン工房訪問」の土台には、DWKやKKWでの経験や活動があるということですよね。

北林:そうですね。DWKはこれまで京都市及びその周辺だけの企画だったのですが、実は京都府は260万人の人口のうち、約150万人が京都市に固まっているんです。2番目に大きい宇治市でも人口15~16万人ぐらい。差がありすぎますよね。京都はどうしても「京都市とその他」になりがちなのですが、僕自身はそれをあまりよくないと思っていて、京都駅から行きやすい宇治や亀岡、久御山、城陽などにも交流の輪を広げて、さまざまなイベントや施策を考えていきたいと思っています。

――B to Bとしてビジネスへ繋げるだけでなく、京都の「その他」に目を向けてもらう意味合いも大きいということですね。

北林:そうです。京都府全域に目を向けると、魅力的なものづくりや地域が実はもっとたくさんありますし、純粋に、この地域を盛り上げたい、産業をなんとかしたいという気持ちを優先していらっしゃる方がたくさんいるので、一緒に前に進んでいる感じがして僕自身も楽しいんです。

 

――そういった地域の方を含め、職人のみなさんは「オンライン工房訪問」については好意的に受け取ってくださっているんですか?

北林 : たぶん、今年だからというのもあると思います。コロナ禍になって時間ができたことと、もうひとつはオンラインに関して何か始めなければと思いつつ、誰に相談すればいいか分からない人が多かったこと。職人さんや地場産業の方たちって、実は孤独なことも多いんですよ。
福井県の「RENEW(リニュー)」や新潟県の「燕三条 工場の祭典」など、地方のオープンファクトリーイベントはなかなか気軽に見に来てもらえない分、みんなで集まって販売機会を作り、B to Cへ向かっていくような傾向があります。お客さんと直接つながる場になっているのも大きな特徴ですが、京都の場合、日常的に人はたくさん来てくれるものの、長い歴史やいろいろな決まりごとによって新しいイノベーションが生まれにくくなっていることが問題だと思います。僕は西陣に住んでいるのですが、50mほどしか離れていない場所に100年くらい前からある企業の方同士が、僕が企画したイベントではじめて名刺交換をしているというようなこともありました。

――それは仲が悪かったというわけではなく?

北林:単純に仕事上の接点がなかっただけなのですが、これは根が深いと思いましたね。それには理由があって、分業制で作られる伝統工芸は産業的にコーディネーターのような役割の人がいて、その人を介してすべて段取りをするため、例えば着物であれば糸を染める人も、織る人も、売る人も直接会うことはなかなかありませんでした。商売構造を保つためですが、新たなものづくりが現場から生まれにくいようにしているという側面もあります。
でもそれは、産業が右肩上がりだった頃の仕組みですよね。職人さんたちとしても、注文通りにやって売れていれば楽だし、その分、技術の追求・向上に注力できるのですが、今は技術に加えて、別の技術をもつ人、ものづくり以外の人とも交流して、新しい発想や価値を生み出すことも重要になってきていると思います。

――その意識は、今の職人さんたちの中にも根づいてきていますか?

北林 : 根づいている人と根づいてない人の差が激しくなってきている、というのが正確かもしれません。前向きではない人たちもいるので、その人たちはこれから淘汰されざるを得ないのかなとも思います。だからこそ、そうなる前にいろんな仕組みを作りたいんですけどね。

 

今、作り手のコミュニティに欠けている
中間的な公共の場をつくっていきたい。

――そういった思いの上に、新しい取り組みとして「オンライン工房訪問」があるわけですが、回数を重ねてみて、課題だと感じていることはありますか?

北林:当たり前の話ですが、もっともっと認知を高めないといけないということですね。ZOOMなどもようやく当たり前のツールになってきたので、京都府の取り組みとしてこんなことをやっているんだとまずは知ってもらうのが重要だと改めて感じています。

 

――認知を上げていくために、今後具体的に考えていることはありますか?

北林:僕はもともと、B to Bの施策やバイヤーとしてのノウハウに強いわけではありません。こういう言い方をすると怒られるかもしれませんが、既存のお店のバイヤーというものがそもそも必要なのか、最近疑問を持ち始めています。というのも、新しい文化を作り出している人って実は、小さいけれど特徴的なセレクトをしている個店の方が多いので、むしろそういう方たちにこの「オンライン工房訪問」も見てもらいたいなという思いはあります。単純に工芸と結びついて特徴を出そうとするような人たちではなく、売れる量は少なくても、思いに共感してくれる人たちにもっとリーチしたいなと。

――それは、B to Bとはまた違うものかもしれませんね。

北林:そうですね、新しい呼び方が必要かもしれません。今、B to Bの「B」がものすごく多様化しているので、特に小規模の作り手になればなるほど、使い手に近い流通がすごく大事な時代になってきていると思います。

――広く認知させるというよりは、向けたいところに向け、どう伝えるかを考えていくということですよね。

北林:そうですね。これが京都府の施策として合っているかどうかは別として、そういう方向へシフトしていかないと今後、地域の産業は成り立たっていかないと僕は思っています。そういう意味では、KKWも「オンライン工房訪問」も地元の人に観てほしいと思っていて、さっきの話のように50m先にある企業が何をやっているのかも知らない状態なので、京都の人にもっと京都のことを知ってほしいという気持ちがありますね。

――それはやはり、ものづくりの文化や歴史の土台が大きすぎる京都特有の悩みですよね。

北林:お祭りのように、日頃の商売や諍いに関係なく「この地域を元気にしよう」という、中間的な公共の場が地域には必ず必要だと思います。京都には町人の人たちが運営している祇園祭のような場がありますが、同じように多種多様なつくり手の方々が普段から交流できる中間的な公共の場はあまりなかったんです。それを作ろうと思ってはじめたのがDWKやKKWでもあるので、今回の工房訪問はもっと境界のないオンライン上の場として、そういうものになっていけばいいなと思っています。

――北林さんが主催する職人さんたちを集めた飲み会も、小さなお祭りのようなものですもんね。

北林:そういうことです。中間の場をつくることは、やっぱり内部の人には難しいんですよね。よく「よそ者・若者・バカ者」が地域を変えると言いますが、僕はこの3つをちゃんとコントロールできる「本物」がいてこそ、それが成り立つと思っています。ただ三者に任せるのではなく、物事の本質を捉えてビジネスの先行きを構想できる人がチームを作っていくことがやはり重要ですよね。
そこを自分自身が担っていけるといいですが、最終的には各地域にそういう人たちが増えて、彼らが自立自走していけるようになることが理想ですし、僕は今後もそれをサポートしていきたいなと思っています。

 

 

 

オンライン工房訪問 Online Factory Visit
※オンライン工房訪問の開催情報は「KYOTO KOUGEI WEEK」のFacebookアカウント(@kyotokougeiweek)にて発信中。写真は過去のオンライン工房訪問の様子です。

 

 

INTERVIEW

TEXT BY ASAKO SAIMURA|EDIT BY ATSUSHI TAKEUCHI

PHOTOGRAPHS BY TAKAHIRO KOHIYAMA(Portrait Photo)

20.12.12 SAT 12:33

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