TOP CRAFTS NOW INTERVIEW KYOTOGRAPHIE 2017出展作家 ヤン・カレン(前編)
京都の職人取材を通して見えてきたこと

INTERVIEW

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KYOTOGRAPHIE 2017出展作家 ヤン・カレン(前編)
京都の職人取材を通して見えてきたこと

4月15日から始まる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017」。寺社や町家など京都ならではのロケーションを活用したスペシャルな写真祭として年々認知度の高まる同フェスティバルには、国際色豊かなアーティストたちが参加している。
その一人であるヤン・カレンは、香港をベースに活動するアーティストだ。東洋思想やその背景にある歴史・文脈を踏まえ、古道具や骨董などを作品に用いるスタイルは、国内外で高い評価を得ている。KYOTOGRAPHIEでの新作発表を控え、京都に長期滞在中のカレンにインタビューした。

ヤン・カレン(殷家樑)|1981年 香港生まれ、香港を拠点に活動。2016年「KG+ AWARD」を受賞し、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017」にて展示を行う。 http://www.yankallen.com

ヤン・カレン(殷家樑)|1981年 香港生まれ、香港を拠点に活動。2016年「KG+ AWARD」を受賞し、
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017」にて展示を行う。 http://www.yankallen.com

 

ー カレンさんと京都との関わりはどのように始まったのでしょうか?

観光客としてこれまで何度も京都を訪れてきましたが、特に関わりが強まったのは3年前に「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」を見に来てからですね。昨年は公募形式のサテライト展示「KG+」に出品作家として参加し「KG+ AWARD」を獲得することができました。それを受けて「KYOTOGRAPHIE 2017」の本プログラムで展示を行うことが決まったので、2016年12月から京都に長期滞在して制作を続けています。京都の伝統・街並みは、私の好奇心を駆り立ててくれる存在です。

ー カレンさんの作品では、古美術や古道具が重要なモチーフとして登場します。そして京都には、昔から継承されてきた大きな時間の流れを感じさせるものが多くありますね。

京都や、そこで出会える事物はアーティスティックなインスピレーションの源でもあります。特に私は蚤の市が大好きで、京都に来るたびに天神さんや弘法さん(北野天満宮、東寺で定期開催されるフリーマーケット)に遊びに行ってはお気に入りのインテリアを探したりしているんです。この街で感じられる人々の伝統に価値を認める態度は自分と自分の作品にとって重要です。
私は主に写真を用いた表現を手がけています。写真にとって、作品そのものだけでなく、制作過程においても重要な要素に「見る」ということがありますが、例えば偶然見つけたアンティークの視力テスト装置が思わぬヒントを与えてくれたりします。

2016年「KG+」に出展したヤン・カレン〈Rhythm of Nature〉シリーズより。様々な国の箒をモチーフにしている。 ©Yan Kallen

2016年「KG+」に出展したヤン・カレン〈Rhythm of Nature〉シリーズより。様々な国の箒をモチーフにしている。 ©Yan Kallen

 

ー 古道具が「見る」ことと結びついた?

ええ。「見る」という行為を通して、私自身が気づきや疑問を持つことができるんです。それは瞬間的な出会い・発見だけでなく、はるか昔の出来事を思い起こすことでもある。
例えば、昨年「KG+」に出品した「Rhythm of Nature」シリーズで被写体になった箒(ほうき)。 箒の制作工程を見返してみると、もともとは空に向かって地面から生えていた草を、人間が切り取って、束ねて、道具に仕立てていることがわかります。掃除に使う際、箒の先は地面や床を向いていますから、それは本来の草の向きとは逆転しているわけです。そこで私はそれを逆さまにして撮影することで、自然と、それに関わる人間についての問いを立てました。

ー そこには批判的な意味も含まれていますか? 例えば自然破壊について。

もちろん自然環境に対する思考が呼び起こされることもあるでしょう。ですが、私自身が考えたいのは自然と人間の関係性についてです。自然と人間、サステナビリティー(継続性)、自然環境、それをどうしていくかという未来の問題。
歴史的に、人間は古代から自然を訪れ、詩を書き、歌ってきました。私が取り組んでいる写真の歴史もまた、自然を被写体にすることから始まっています。そこには自然が人間に与えてきた恵みと、人間が自然を守るために行ってきた返礼のような行為の循環が常にあります。

ー つまり自然と人間のあいだのエコシステム、エコロジーに関心を持っている。

そうですね。次のKYOTOGRAPHIEの出品作も同様の意識で取り組んでいます。

2016年「KG+ AWARD」を受賞したヤン・カレン「No Coming / No Going」展にて作家本人。 Photo by Naoyuki Ogino

2016年「KG+ AWARD」を受賞したヤン・カレン「No Coming / No Going」展にて作家本人。 Photo by Naoyuki Ogino

 

ー 新作「Between the Light and Darkness | 光と闇のはざまに」について教えてください。

主に工芸職人の道具を被写体にしていますが、工芸に関わる歴史や文脈を扱うシリーズでもあります。例えば、鋸(のこぎり)。日本の多くの木工技術は中国から伝わったもので、鋸もそうなんですね。しかし、押して切るのが中国の鋸であるのに対して、日本は引くタイプに改良されて、より正確に切れるようになっている。これは西から東へと技術や伝統が伝播し、継承されることの一例として見ることができるでしょう。
あるいは千家十職(せんけじっそく)の大西清右衛門さんの家で代々受け継がれてきた茶釜の「型」。茶釜の断面図のような型をぐるっと一周させると、円形の茶釜の鋳型ができるようになっている。写真に関連させて言えば、これはネガ(陰画)とポジ(陽画)の関係を想起させます。このように、工芸の中にはものを作るだけでなく、継承と保全、文脈的な要素が含まれているんです。

ヤン・カレン「Between the Light and Darkness | 光と闇のはざまに」出展作より上は『ノコ I 牧神祭具店にて 京都』、
下は『和紙の天日干し 黒谷和紙工芸の里 綾部』。ともに 2017年制作。 © Yan Kallen

 

ー 展示は写真のみになりますか?

写真と、職人の方々とコラボレーションしたものも登場します。例えば、神鏡を作る鏡師の山本晃久さん、神具指物師の牧 圭太朗さんとは、カメラ・オブスキュラ「写真鏡」を作りました。

ー カメラ・オブスキュラはカメラの先祖で、針で開けたような小さな穴をレンズがわりにして、外の映像を投影する装置ですね。レオナルド・ダ・ヴィンチの時代には写生スケッチのために利用されていますし、原理自体は紀元前には知られていたとも言われます。

鏡師の山本さんから紹介していただいた『日本人と鏡』(菅谷 文則著、1991年、同朋舎出版)という本には、江戸時代のカメラ・オブスキュラの挿絵が載っていてとても驚きました。展示では、写真鏡を会場の無名舎の坪庭に向けて設置し、古い家屋に宿る自然と日本人の関係性をテーマにするつもりでいます。

ー 職人との協働作業を通して、発見はありましたか?

非常に多くのことを発見しました。特に強い印象を残したのは、工芸の仕事が、同時に家族の物語でもあるということです。何代にも渡って、祖父から父へ、父から子へと受け継がれていく工芸は、技術を伝承することと家族を形成し、生み育てていくことが不可分です。工芸の歴史自体が、近代以降と、それ以前の長い伝統との緊張感のあいだに成立していますが、それを保存することへの情熱と責任感を職人の方たちは必ず持っている。
みなさんの多くが遷宮に関わっていることもあって、伊勢神宮も訪ねたのですが、ここにはとても興味深い習慣が残っています。神宮が遷宮される際、近くにある宇治橋という神聖な橋を、各都道府県から選ばれた家族が渡るという儀式があります。それは世代をつなぐような意味合いがあるそうで、前回の遷宮の際には、私が取材した神具指物師の牧さんの一家が選ばれました。これは偶然の出会いではありますが、工芸と家族のつながりを象徴する出来事だと思い、伊勢神宮の写真と、一家のファミリーポートレートを展示するつもりです。

伊勢神宮で撮影した写真を手に語るヤン・カレン。

伊勢神宮で撮影した写真を手に語るヤン・カレン。

 

ー とても面白い仕事をされていると思います。工芸が1つの主題になっていますが、造形、歴史、継承、自然との関わりなど、無数の視点を組み合わせて、自然と人間のささやかでもあり、遠大でもあるような作品になっています。

多くの道具が世代を超えて、次の代に受け継がれてきたものですからね。私自身は中国にルーツを持つ人間ですが、中国の工芸技術の大半は、文化大革命(毛沢東率いる中国共産党が行った改革運動。実態は党内の権力闘争で多数の文化人が粛清された)などの影響で歴史から失われてしまいました。日本に来て、本来自分のルーツであったものを見つけていくというのはとても不思議な体験です。

ー カレンさん自身が、カナダで生まれ育ち、ヨーロッパで教育を受け、現在は香港を拠点とする、いわば旅人のような存在です。あなたにとっても「移動」は重要な要素だと言えるのではないでしょうか?

世界を旅して、各地の文化のことを知らなければ、東西を比較して考えるという意識は芽生えなかったでしょうね。ですから、移動は自分にとって大きな経験です。一方、土地が変わっても共通していることはあって、例えば箒はアメリカでもアジア、アフリカでも、自然物を利用して作られている。そういった事象は、自分にとって様々な示唆を与えてくれます。
残念なことに、世界の多くの都市では様々な技術や伝統のつながりがバラバラになってしまっていて、職人が交流する機会もほとんど失われています。しかし京都はコンパクトな街のなかに多彩な職人が今も働いていて、互いに連携しあっている。このような環境が息づく京都だからこそ、私は歴史や継承の空気を感じることができるのです。

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017「Between the Light and Darkness | 光と闇のはざまに」展のスケッチ  ©Yan Kallen

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017「Between the Light and Darkness | 光と闇のはざまに」展のスケッチ  ©Yan Kallen

 

後編では、「Between the Light and Darkness | 光と闇のはざまに」展の様子をレポートする。

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017
会期:4月15日(土)〜5月14日(日)
会場:京都市内16ヶ所
URL:www.kyotographie.jp

ヤン・カレン「Between the Light and Darkness | 光と闇のはざまに」
会場:無名舎(京都市中京区新町通六角下ル六角町363)
会期:4月15日(土)〜5月14日(日) 10:00〜18:00
休館日:水曜 (5/3以外)
URL:www.kyotographie.jp/portfolio/yan-kallen

コラボレーション&撮影協力
釡師:大西清右衛門
塗師:西村圭功
鏡師:山本晃久
神具指物師:牧 圭太朗
畳職人:横山 充
染師:吉岡更紗
紙漉師:ハタノワタル
陶芸家:明主 航

特別協力
禰宜:小栗栖憲英
漆掻き職人:山内耕祐

INTERVIEW

TEXT BY TAISUKE SHIMANUKI

PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO(PORTRAIT)

17.04.12 WED 15:00

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